第16話 S級冒険者の実力
「では、そろそろ行きますか」
俺はステラさんが見繕ってくれたアイテムをいくつか買って、クローリーの街を出た。
荷物はリュックに入っている。
持ち運びやすいし結構容量が大きいから色々と入って重宝している。
とはいえ、俺のリュックが異世界仕様になったおかげで容量は限界を超えてめっちゃくちゃ増えた。しかも重たさをまったく感じない。
ただでさえ重宝していたのに、もっと重宝することになろうとは……。
「それにしても不思議な収納袋だ。本当になんの素材できているか検討がつかない。エリカはこれがどんな素材でできているか聞いてことはあるか?」
「いやぁ、あんまり興味なくて聞かなかったです。別にユキトさんから話してもないので」
エリカさん……興味があるのは酒だからな。
「どうかね? ユキトくんさせよければ、高値で買い取るよ?」
「申し訳ないですけど、思い出の品なので」
「そうかい。もしも気が変わったらいつでも声をかけてくれ」
ごめんステラさん。興味を持ってくれたことは嬉しいけれど。
これは俺が社会人になってから初めての給料で買ったリュックなのだ。
当時は大学生の時のバイトの給料と違いすごく大金に思えた。
だから最初だけ……自分へのご褒美を兼ねて背伸びをして買った(実際の手に残った金額はあんまりなかったけれど)。
まぁ、社会人になってから友達と遊ぶことが皆無になったおかげで、数えるくらいしか使っていないのだけど。でも俺にとっては数少ない良い思い出。
中身が変われど、思い出は変わらない。
「ユキトさん。大丈夫ですか? 疲れてませんか?」
エリカさんが俺を心配して声をかける。
「ありがとう。今のところ問題ないかな?」
「そうですか……もしも休憩したかったらいつでも言って下さいね!!」
エリカさんはそう俺を励ましてくれる。
いっそ、ガッツリ疲れた方が温泉に入った時に気持ち良いかもしれない。
話は変わるけれど山小屋までの帰宅のルートは行きと同じらしい。
不思議なもので、一度通った道は長く感じたが帰りの道は行きに比べて短く感じる。
別に調べるほど理由が知りたい訳ではないけれど、折角異世界に来たのに少しだけ寂しくなってしまう。
「キエエエエエエッ!!」
前方から大きい鳥型のモンスター走ってくる。
見た目は完全にニワトリ。大きさは2メートルほど。十分脅威であることには違いないけれど。
「グランドターキーか。あの肉、美味しいんだよ」
ステラさんはボソッと呟く。
美味しいなら是非とも食べてみたい。
「ユキトさん危ないからここは任せて下さい!!」
「いや、折角だから俺にやらせてほしい」
なるべく魔法の練習をしたい。普通に練習することも大事だけれど、今のうち実戦を積んでも悪いことはない。
「譲れません!! 私!! 未だにS級冒険者らしいところ見せられてないんですから!! なんちゃってS級冒険者なんて思われたら嫌なんです!!」
「わ、分かりました……」
エリカさんの圧に負けてしまった。
なんというか、すごく必死さを感じてしまったのだ。
むしろ『それでも俺が行く!!』というのは俺では言えそうになかった。
「ありがとうございます!!」
エリカさんは律儀にお礼を言って、剣を抜く。剣は片手くらいの大きさ。
エリカさんはそのままグランドターキーに駆け走る。
「はあああああっ!!」
異世界ニワトリ……もといグランドターキーを一刀両断。ほぼ一瞬の出来事。
「どうですか~!! ユキトさん~!! これが私の実力ですよ~!!」
エリカさんは声をあげて、ブンブンと手を振りアピールする。
「すごいな」
これがこの世界でトップクラスの冒険者の実力。
普通にかっこいい。
「ユイもかんたんにたおせる」
ユイちゃんも同じS級だから、文字どおり簡単に倒せるのだろう。
「今度ユイちゃんの魔法も見せてね」
「まかせて」
ユイちゃんは『ふんす』と鼻息をならす。
「そろそろ丁度昼時だから丁度いいね。折角だしステラちゃんの手料理でも振舞おうかね」
ステラさんはそんなことを言う。
なるほど? ということは、この異世界ニワトリは食べられるってこと??
だったら、せめて俺が料理しないとな。
「いや、さすがに俺がやりますよ。このままでは何もすること無いですし」
「まったく遠慮なんてしちゃって……こんな美人の手料理を食べないなんて損しちゃうゾ♡」
ステラさんは可愛いらしくウインクをする。美人がすると似合ってしまう。
時折、俺と同い年だということを忘れる。
うん。やっぱり容姿って大切なんだな。自分で言ってて悲しくなるけれど。
「ユイ。ユキトのごはんがいい」
「なんでだよ!! そこは私のご飯がいいって言う流れだろ!!」
ユイちゃんの無慈悲の一言により、料理は俺がすることになった。
「ふんだ。分かりましたよ。その代わり、美味しくなかったら小姑みたいにケチつけてやりますから」
ステラさんは拗ねたように口を膨らませる。本当に同い年なんだよね……?
「だったら、なおのこと頑張って料理しないといけないですね」
「え!? ユキトさんがご飯作ってくれるんですか!! 楽しみです!!」
「エリカ!! お前もユキトくんかね!!」
「ははは……」
期待してくれているのは普通に嬉しい。
できることが当たり前じゃない。
作って美味しいとかありがとうとか……そんな言葉だけでも、やってよかったなって思える。
「それなら期待に添えられるように頑張らないとな」
俺はリュックからフライパンを取り出すのであった。
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