第12話 初実戦

「よし。そろそろ出発するか」


 翌々日の朝。


 俺はリュックサックを背負って、山小屋のカギを閉める。


 俺は初めて異世界を見て回る。当たり前だろうけれど、俺の知らない世界が広がっているのだろう。


 とはいえ、あまり山小屋ここを空けるつもりはない。


 目的はあくまでご挨拶。いうならば、ご近所に挨拶に行くようなものだ。

 とはいえ、何かあるかもしれないから最低限の料理器具を持っていくことにした。


 寝床はなんとかなるが、食事はおろそかにできない。という訳でフライパンと調味料をリュックに入れた。


 もしかしたら、異世界の美味しい食材に会えるかもしれないし。


「くぅ~ん」


「大丈夫だ。シロも一緒だよ」


「わふ」


 俺がそう言うと、シロは尻尾を嬉しそうに振る。


 そうか、シロはお出掛けって分かるんだな。本当に賢いな。


 ちなみに昨日収穫した白い果実はお昼ご飯のサンドイッチに使った。そのまま食べたけど甘くて美味しかったものだから、フルーツサンドのような形になった。


 ところで俺のリュックなんだけど明らかに収納できる量が増えていた。

  

 形は変わらないのに容量だけ増えている。

 

 前にユイちゃんが見せてくれた収納袋みたい状態。


 神様……いつの間に俺のリュックを異世界仕様に。いや、めっちゃありがたいんだけどさ。


「ユキトさん!! 街に着いたら酒場に行きましょ!! 私のオススメのお店を紹介しますよ!!」


「いや、まずはギルドに挨拶に行くんだろ? まぁ、酒場も楽しみだけど」


 異国ならぬ、本場の異世界の味。楽しみじゃないって言ったら嘘になるだろ??


 ちなみにエリカさん曰く、ギルドがある街までは歩いて半日の距離とのこと。


 道中はモンスターがでるらしい……これが異世界クオリティ!! かと思ったけれど、現代日本も山だと熊とかでるらしいし、そんなにかけ離れたものでもないのかもしれない。


「あんしんして。ユキトはユイがまもる」


「それは頼もしいな」


 フンスと鼻息を漏らしてドヤ顔をするユイちゃん。


 エリカさん曰くユイちゃんはS級天才魔法使いらしい。


 少なくとも強さが保障されてる二人と共に異世界を歩けるのは、俺はかなり運がいいのだろう。


「そういえば、ユイちゃんって何歳なの?」


「?? ユイは10さいだよ?」


「そっかぁ……」


 10才に守られる20代半ばって……。うん。もっと魔法練習を頑張ろう。


 そんなこんなで歩いていると、


「ユキト下がって。モンスターがでたよ」


「グォオオオオオオ!!!」


 小型の恐竜みたいな姿。茶色の皮膚に黄色や青のストライプ柄が入っている。


 おぉ……これが異世界モンスター。まず日本でこんなやつモンスターをお目にすることはない。


「ロックリザードか……C級モンスターなんて私の敵じゃないよ!!」


「てきじゃない」


 エリカさんは剣を構えて、ユイちゃんも杖を構える。ついでにシロも『ぐるるるる』と唸る。


 おそらくこの二人なら一瞬で倒してしまうのだろう。


 C級のモンスターがどれくらい強いか分からないけれど、今の俺の実力を測るチャンスなのではないだろうか?


「ごめん。二人とも一回でいいから俺が攻撃してもいい? せっかく魔法を覚えたから使ってみたいんだ」


「お!! ついに魔法の特訓の成果を出すんだね!! うんうん!! いいよ!! なにかあっても私達が守ってあげるよ!!」


「まもってあげる」


「二人とも……ありがとう」


 俺は右手に風の魔法陣を展開して、風の球体を作りだす。まだ魔法を習って3日目とかだけど、上手くできたのはこっそり練習をしていたからだ。


 水の魔法は失敗したら床が水浸しになったり洒落にならないけれど、風の魔法だったらちょっと扇風機の強くらいの風が吹くだから思う存分練習していた。


「ウインドボール」


 俺は風の魔法、もといウインドボールをロックリザードに向けて一直線に放つ。


 バビュン!! という音と共に160キロくらいの速さで飛んでいきロックリザードのお腹に命中した。


「グエエエエエエエエ!!!!」


 ロックリザードは一撃で倒れた。


 けれど一昨日に風の魔法を木に放った時とは違い、思ったよりも威力はないのかもしれない。


「おぉ~。ユキトすごい」


 ユイちゃんは手を叩いて褒めてくれる。


 あれ? 実は結構上出来だったりするのか??


「いや、ユキトさん。お世辞抜きに本当にすごいですよ。ロックリザードって風魔法の耐性が高いんです。それなのに、一撃で倒すなんて……」


「そうなんですか? そんなに褒められると照れますね」


 ブラック企業時代はどんな難題もできて当たり前。できなければ怒号と罵詈雑言を浴びるのは基本。


 だからなのか、やった成果に対して褒められるのは素直に嬉しいと感じてしまう。


 本来、二人にとってはロックリザードを倒すことは大した労力ではないかもしれない。


 それなのに褒めてくれたエリカさんとユイちゃんの温かさに少しだけ目尻が熱くなった気がした。


 もっと頑張ろう。そう思った。


「というか、私ユキトさんに風の魔法なんて教えてないですよね?」


 エリカはそう言うと、涙目になっていた。


「そうですね……でも、風の魔法も使えるようになったのはエリカさんのおかげですよ? 実際、魔法のことを教えてくれたのはエリカさんですし」


「ううっ……ユキトさんは優しいんですね」


 エリカさんは何故か「よよよ……」と言いながら泣いていた。


 人のことを言えないだろうけれど、そんなに泣くことだろうか。


「私、ユキトさんのエイルが飲めなくなったらどうしようって思って」


「ははは……そっちですか」


 エリカさんらしいと納得してしまった。


「ユイもおしえる」 


「頼もしいな。ありがとうユイちゃん」


「ぶらっくどらごんにのったつもりでいて」


 ユイちゃんはフンス!! と鼻息を立てて胸を張る。


 普通にユイちゃんも良い子なんだよな……そういう意味では、俺は異世界にきて恵まれていると感じる。


 そこから先は特に何事もなかった。


 なんなら途中お昼ご飯もゆっくりと食べられたし、おおよそ異世界の空気を感じ取れた。俺個人的には結構満足。


 街には簡単に入ることができた。


 門番さんとかいたけれど、エリカさんとユイちゃんの友人ということで、簡単な質問を受けただけですんなりと入れて貰えた。というか、めちゃくちゃ気を遣われた。


 俺は完全によそ者なのに簡単な質問で済んだのは、エリカさんとユイちゃんの二人のおかげなのだろう。


 S級冒険者って本当にすごいのかもしれない。


「ここが私とユイが所属している冒険者ギルドだよ。とは言ってもここはあんまり大きくないところだけど」


 剣と盾の絵が描かれた看板を見るに、ここが冒険者ギルドのマークなのだろう。


「ただいま~!!」


 エリカさんはそう言いながら、木造二階建て建物の扉を開ける。


「ようこそ!! 冒険者ギルド、クローリー支部へ!!」


 目の前で仰々しくお辞儀をしている銀髪の美女がいた。

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