side:ノア
お父様が、見たことないくらいきれいな男のひとをつれてきた。最近は、お父様ってよぶだけで叩かれるようになったけど。
そのひとは、ミカエルと言った。
サラサラの雪みたいに白い髪に、血の気のない肌。冬の湖のような瞳。けぶる白いまつげ。使用人の服を着ていたけど、ミカエルのもつ独特のふんいきは、隠せていなかった。ひとつひとつのパーツがお人形のように整っていて、なんの表情もないのも相まって、少しこわかった。
だけど、ミカエルは優しかった。これまでの使用人みたいに叩いたり、どなったりしないし、わざわざひざをついて、僕の目を見て話してくれたんだ。
ミカエルは、じぶんは僕専用の人形だと言った。すんなり納得してしまった。あんまり白いから、本当にひとなのか心配になっていたから。お人形なら、このへやでも寒くないよね。
ミカエルは、お人形なのに魔法が使えた。前の使用人に消された、へやのあかりを点けてくれた。ひさしぶりにみた炎は、とてもあたたかかった。でもミカエルは、炎をみている僕をみて、少しだけかなしそうな顔をした。なぜか、ぐっとむねが痛くなった。
手を引いてくれた。はじめてだった。白い手袋ごしのだし、ミカエルはお人形だから、とても冷たかったけれど、泣きたくなるくらいうれしかったんだ。だけどいきなり泣いたりしたら、ミカエルにきらわれるかもしれないから、我慢した。
ミカエルは、ゴミやほこりでよごれた僕のベッドを、魔法で綺麗にしてくれた。新品みたいにまっしろになったベッドをみて、ミカエルはまんぞくそうにくちびるをにまにまさせた。どうやらミカエルは、なにかうれしいことがあると、かおには出ないけど、くちびるがうごくみたい。
よこになったベッドは、やっぱり薄っぺらで冷たかったけど、ミカエルが握ってくれた手はそのままで、僕はちっともかなしくなかった。目をつむって、つぎに目がさめたらミカエルがいなかったらどうしようって思った。
だから、ちょっと寝たふりをして、ミカエルがいなくならないか、手を握ってた。そうしたらミカエルは、僕がねむったと思って、やっぱり手をはなそうとしてた。だから、ぎゅっと手をにぎった。ミカエルは、ハッとしたみたいに、また手をにぎりかえしてくれた。
なにかぶつぶつとつぶやくと、僕の顔をのぞき込んで、「守る」って言ってくれた。信じられなかった。はじめてだ。手を引いてもらうのも、守るって言ってもらうのも。むねがぽかぽかしてくる。
ミカエルがいるなら、僕は大丈夫になるかもしれない。バケモノだって、いみごだっていわれても、ミカエルがこれからもいっしょにいてくれるなら、大丈夫かもしれない。目をつむったミカエルは、もっとお人形らしく見えた。だけど、手は握ったまま。
僕はその手にほおをよせて、ほんとうにひさしぶりに、あんしんしてねむった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます