第三十二話 こっからが「反撃開始」ってやつよ

──柊馬視点──



 グビッと飲み干せば、喉越し最悪!味も最悪!後味はもっと最悪!

 総合評価は、最低ランクの★×3(Excellent!!!)です。



「うッ……オエ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙(しばらくお待ち下さい)



 まず、前提条件が「飲み物じゃない」。

 次に、「人が口にする物じゃない」。

 最後に、「不味いとか苦いとかいう次元じゃない」。


 これを芸術と言わずして、なんと申しましょうか!(n回目)



 こ れ は ひ ど い



 味蕾みらい(味を感じる所、舌に付いてるツブツブ)がほとんど逝った。


 一体何混ぜて調合したら、こんな悪魔みたいな薬が出来るのだろうか。


 飲んだ後も、なんか喉の奥で引っ掛かるような違和感あるし。


「どうだ……あんちゃん?」


 アンタ分かって言ってんだろと、心の中で文句を垂れるが、俺は笑顔でグッドサインを送る。

 で、白髭は苦笑する。ほらやっぱり分かってる。


 隣でお姉さんも、俺の感想を待っている。


「す、凄く不思議(クッッッソゲロマズのクソみたい)な味がしました」


「そ、そうですか……お、お身体に変化はございませんか?」


「そういえば………ん?う、うおおお……!?」


 体に翼が生えたように軽い。

 それに、全身が煮え滾るように熱い。


 車でいう「ニトロ」ってやつだろうか……。

 人間でいう「Red B◯ll」ってやつだろうか……。


 こんなに即効性があると、やはり危険物だなと改めて思ってしまうが、今はそんなのどうでも良い。


 危険物質を取り込んだ俺の反応を見て、お姉さんの顔に訝しげな表情が映る。


「えっと、どうしました……?」


「あ、いえ!通常であれば、これを飲んだ人達は最初、絶対に身体が拒絶反応を起こすものなのですが……シュウマさん、どうもありませんか……?」


 えぇ、何それコワイ……。


「どうも、ありませんが……」


「す、凄いですね!全く拒絶反応を起こさないとは……!ボソッ(研究意欲が沸いてきます……ジュルリ)」


「今なんと……?」


「な、なんでもございませんっ!」


 ただ綺麗なお姉さんかと思ったら、とんでもない癖をお持ちだったことに少々ショックを否めないのはさておき、俺は早速砕流夢サイリウムを持ち、【解放リベレーション】する。



「助かったでござる。これでまた前線に戻れるというもの、この恩はいつか必ず返すでござるよ!」


「おっとあんちゃん、俺も行くぜ?俺はあんちゃんの護衛として任務を仰せ付かったが、その必要が無いのなら、団長のとこに加勢してぇんでな」


「了解でござる」


「あ、あの!頑張ってくださいね……!」


 満面の豚スマイルを送ってから、俺達は建物の窓から飛ぶ。


 この白髭、絶対に手練れだな。

 俺は身体強化で色々と補正がかかっているが、この人は生身の能力で俺と同じくらいのスピードで走っている。それも、屋根を。


「がっはっは!あんちゃん、やるな!流石は団長の友というだけある!」


「そちらも大概でござるがね!こちらからすれば、人間離れした超人でござるよ!」


「鍛え方が違うってもんよ!」


 んなわけないだろ……。

 鍛えてたらこんなガチムチの白髭になりました、なんて俺なら御免だ。



 ……さっき部屋にいた時もそうだったけど、ずっとズドーンズドーンって凄い音が聞こえてくるんだよな。


 一体何かと思えば、俺の視界の先に「ハエ」のようなものが見える。

 時折その「ハエ」から光が出ているのだが、多分あれが白髭の言う「デカブツ」なのだろう。


「あれだな……」


 どうやら予感的中。

 白髭の、先程までの陽気なおっちゃんが一変して、緊迫した騎士らしいオーラを放っている。


「準備は良いか、あんちゃん……いや、シュウマ殿?」


「勿論でござるよ、えっと……」


「『ウェイン』だ」


「よろしく頼むでござる、ウェイン殿!」


「おう!」


 少し汗臭い男の絆を結び、俺達はデカブツへと接近する。



 ───てか、あの「ハエ」、なんかすごーくやばそうな技の準備してない………?



=====




「 【閃光剣術:旋風天照大神アマテラス】 」



 葵達に「なんかすごーくやばそうな技」が直撃する寸前、全出力で技を放ち、ギリギリだが弾き飛ばすことに成功した。


「柊馬!傷は大丈夫なのか!?もう立ってるのもしんどいくらいの怪我だったはずだろ……!?」


「ちょいとをして来たもので、今は元気モリモリでござる!」


「まさか、『アレ』を使ったのか……」


「生ゴミみたいな味がしたでござる☆」


 まだ風味が口の中に残留しているのが、これまた芸術点高めだ。

 もう二度と、あんなものを口にしたくはない。


「……で、これがそのでござるか……」


「がっはっはっは!近くで見ると、やっぱデカいな!」


「ウェ、ウェインさん……!?何故あなたが此処に……」


「そりゃ、シュウマ殿が前線に戻るって言ったからですよ、団長」


「そうか……」



 役者も出揃ったところで、俺は早速橙赤色の光を両手に、腰を低くし、構える。


「柊馬、あの大群のどこかに本体である『ベルゼブブ』がいるはずなんだ。手伝ってくれないか?」


 俺は腐ってもヲタク。頭の回転は無駄に速いので、大体何が言いたいのかは分かる。つまり、だな?



「……えっと、すまぬ……どゆことでござる?もう一度言ってくれぬでござるか……?」


「えっと……と、とりあえず後で話す!今は援護に回ろう!」


「りょ、了解でござる……!」


 俺のポンコツっぷりを披露した直後、後ろの方から声が聞こえる。


「団長!今、打てます!」


「お願いします!!」




     「「「「「 【聖属性魔法:断罪と祝福を告げる十字架ディヴィヌス・クルキス】 」」」」」




 とんでもない魔力を帯びた巨大な光の柱───『十字架』が、ハエの大群目掛け、前方にどデカい波動を打ち出す。


 それはハエの大群に直撃し、次々にハエが焼却されてゆく。

 巨大な一匹を形成していたハエの陣形は総崩れし、頭と両前足の部分のハエはほとんど焼け焦げて、欠損した状態になっている。



「やっぱりだ……!」


 葵が何かを察したような様子を見せる。

 勿論、俺も分かってましたよ、ええ。


「こいつは……!」


 彼の言葉で、全てを理解した。


「つまり、さっきのデカいのをもう一回打ち込めば良いってことでござるね!?」


「いや、それはあまりよろしくない」


 どうやら俺には理解力が無かったらしい。

 

「えっと……とにかく、『ベルゼブブ』を探せば良いのでござるよね!?」


「そう!とりあえず、走りながら説明する!───全団員に告ぐ、時間が欲しい。僕達を援護してくれ!」


 その声で、騎士達が一斉に集まり、陣形を作る。


「やっと反撃ですか?団長」


「待ちくたびれましたよ」


「やられっぱなしじゃあ、面白くないよな!」


「行こうぜ団長、それに光剣使いの人!」


 皆が一心同体となっているかのように、団結力が生まれる。

 これが『騎士団長』の影響力というものなのだろうか。


 俺には無理だな、と思う暇も無く、早々に形を立て直しつつあるハエの攻撃が続く。


 ハエ達の奏でる羽音には、まるで憤りのようなものを感じられる。

 ……ハエって怒るもんだっけ。



 ん……?『感情』……


 『感情』 『知性』 『大群』…………『』────?



「葵殿、まさか『ベルゼブブ』というのは、に一匹だけいるのではござらぬか……!?」


 辺りを一瞬で火の海と化す熱線を、必死に避けながら、葵に質問を投げる。


「す、凄い……!短時間でそこまで……その通りだよ、柊馬。分かっているなら話しが早い。頼めるか?」


「勿論でござる!」


 続く雷撃を突破し、葵とグータッチを交わす。



 ランゼリオンこっち来てから、ずっと戦いっぱなしだったが、もうちょい保ってくれよ俺の体……。


 この戦いが終わったら、ダイエットを忘れて三日はたらふく食おう。

 無論、葵のツケで。



 司令塔がいるとすれば、一番かつところだよな……。


 先程の大規模な魔法のお陰で、未だ補填出来ていない部位が丸見えだが、真っ先にハエの防御を固めたに、奴が───『ベルゼブブ』がいる。



「脳天でござるか………!」


「だね……!」



 さぁ、こっからが「反撃開始」ってやつよ。

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