ヲタク×剣豪 〜 異世界転移しても「ヲタク」な豚は、今日もどこかで光剣(サイリウム)を振る 〜
Yuupy(ゆっぴー)
プロローグ
── とあるダンジョンの深層部 ──
俺たちは、いつもの通りにダンジョン攻略を進めている最中だった。
ギルドでも名の売れたこのパーティーは、俺含む4人とも実力者揃いで、かなりの知名度があるのが誇りだった。
「──なぁ、知ってるか?最近、各国の動きが激しくなってきてるって」
盾役を担っている
「あっ、そのお話よく耳にします。私の国の情勢もあまりよろしくないとの噂が…」
後衛で支援や回復などを行う
「まあ、時代が時代だしね。何せ『剣術』が優位なこのご時世、国は総力上げて剣士を育てたがるからね。魔法使いなんてどのパーティーにも起用されてないし、魔法そのものが衰退しつつあるんだもん。仕方が無いよ」
それに補足するように答えるのが、援護射撃を得意とする
彼女の言う通り、今から約200年前は魔法の全盛期だった、と地元の村に住んでいた時に聞かされている。その強大な力、膨大な物量にはどのような屈強な戦士も赤子同然だったと。
──しかし、その長年の常識が
人間によって生み出された技術が、人間によって打ち砕かれる。なんとも皮肉な話だ。
今こうして徴兵もされず、冒険者としてやっていけているのは、間違いなく『中央大陸議会』の力あってのことだろう。
その『議会』が創設された頃からだと言う。
魔法があまり使われなくなっていったのは──
詠唱による時間的な効率の悪さ、魔法を打ち出す速度の遅さ、より大きな魔法を生み出す為にはより多くの魔力を消費することから、連射が不可能である、などの要因から衰退していったそうだ。
そこに、取って代わったのが、現在の戦闘において主流とされる『剣術』。
魔力をより効率的に、持続的に循環するように編み出され、色々な派生や進化を遂げ、今に至る。
しかし、戦闘の主流とはいえど、生まれつきの適性、魔力容量、基礎体力により大きく左右されるため、誰もが使えるわけではない。
そこで「パーティー」を組むことによって、足りない部分を補い合うという慣習が生まれた。
俺は近接戦闘を得意としている
『剣術』に適性があり、且つその腕を認められた者は各国から騎士団への入団依頼が来るそうだ。やはり、剣の才がある者を自国で保持していたいという思いは、どこの国でも一緒だ。
その国家間での焦りによるものだろう。近年、騎士団の兵力増強のために、どの国も人員を増やすことに尽力しているのは。
「そろそろボスの部屋か……」
俺がそう呟くと、場の空気が一気に緊張に包まれる。
先ほどの狭い洞窟内とは違い、天井も通路もかなり開けている。
俺たちの前に立ちはだかるのは、石で造られた重々しい巨大な扉。怪しく光る青い光が、扉の両側に付いている松明に灯されており、その不気味さを引き立てている。
「開けるぞ……」
そう言って、扉を開く。
その中で待ち受けていたものは──
「は……?なん、だよ……これ……?」
「え……?」
「嘘でしょ……?」
その場にいた全員が足を止め、石化されたように固まり、その光景を凝視していた────いや、そうすることしか出来なかった。
先客が居た。それも、俺たちでは到底敵わぬような、先客が。
今回の目標である、ダンジョンボス『紅竜』。
高火力の炎を吐き出し、身体能力も高い強力な魔物。並のパーティーでは太刀打ち出来ない……そのはずだ。
そこに居たのは、「二人」だった。
一人が持っているのは、俺たちの国では見たこともない刀身で、本当に美しい鋼色をした
そして、もう一人が持っているのは……光を放つ双剣?
いや、違う。あれは二つの棒からそれぞれ光が放出され、光そのものが剣と成っているんだ。
美しい赤橙色の光。それがもう一人の所持する異様な武器の放つ光景であった。
長剣使いが、何やら術のようなものを掛け始める。
それと同時に、二人をオーラが包み込んでいく。
「さっ、行くか!柊馬」
「うむ……あまりやりたくはないでござるが、仕方がないでござる」
その短い会話を最後に、二人の姿は一瞬で消え去った。
振るわれた剣の残像を目で追うのに必死だった俺たちは、肝心な部分に気が付かなかったのだ。
──この世には『剣術』と呼ばれるものが存在する。それはどんな国家でも欲しがっている能力で、それを持つ者は優遇され、将来を約束される。
俺たちは見てしまった。
真の「頂」に達した者達を。
本当の「境地」に至った者達を。
光剣使いの放った特大の極光に思わず
切り落とされ、血飛沫を吹き出している『紅竜』の首であった。
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