ヲタク×剣豪

ゆっぴー

プロローグ 〜 最果てより 〜

 『ヲタク』


 其の道を愛し、境地に達しようとする者。


 今日こんにちでは社会に浸透しつつある、一つの「属性」とも言えるであろう。今や運動部、文化部、老若男女を問わず皆が何かしらのヲタクである。


 しかし、一方ではスクールカースト最底辺で、世間一般からは蔑まれる


『我道』


に生きる者達も存在する。


 彼らは決して他者の目を気にせず、他者の価値観に流されず、自身の愛と、探究心と、プライドで道を切り拓く能力を持っている。



 これは、「陰キャ、チー牛、豊満ボディのThe・ヲタク」という三点セットを持ち合わせたヲタクが異世界覇道ライフを送る…かもしれない物語。



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 よいを告げるかのように、つい先程まで茜色に染め上げられていた空は深い藍色へと変色しつつ在る。

 先刻まで燃え盛るように熱気を放っていた地面は急激に冷却され、辺りには静寂だけが取り残される。


 見渡せば森は愚か、木の枝一本見つからない。


 砂と礫で形成される世界に、数ヶ月前まで高校生だった男が立っている。



 夜の帳がゆっくりと下ろされる中、湿った風が男の頬を撫でるたび、その表情には不気味な笑みが貼りついている。

 



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…




地震にも似た轟音が、微かに聞こえる。

 



ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…!!!



 地平線から姿を現し始めたのは、まさしく『台風』。


 地面を割るような地響きが大地の怒りを体現し、遠方に見える重厚な砂塵の群れは竜の咆哮ほうこうを思わせる程に荒れ狂っている。

 これを砂嵐などという生易しいもので表現するには大いに語弊が生じるだろう。



 砂岩や礫が空気中に舞い、星空は一瞬にして埃塵じんあいの壁に覆われ、その美しい光はことごとく消え去る。


 

 鳴り止まぬ砂漠の激昂は留まることを知らず、こちらを目掛けて一直線にせまってくる。



「…キョリ、おおよそ300…でか」


 男が口を開く。

 自身の気持ちのたかぶりを抑えるように、冷静かつ慎重に。


 そして、自身の最大の特徴を、何よりも分かりやすく比喩する語尾。



 どこからか声が聞こえてくる。


「──大丈夫か?柊馬。まさか、ここまで来て怖気づいた、なんて言わねぇよな?」


「…………」


 隣に立っているイケメン畜生の言葉など聞こえない。そうだ、何も聞こえない。


「おい、聞いてんのか?大丈夫なのかよ」


「…………」



「本当は怖いんじゃねぇのか?」



「………う、うるっさいでござる!集中してるんでござる。それに、折角ここまで良い感じの雰囲気を醸し出してたのに、全部台無しでござるよ!」


 隣からイケボでけなされ続けるのは流石に気が滅入る。



「やっぱりな。どうせ怖がって、いつもの強がりやってると思ったぜ」


「ち、違う、これは覚悟を決めていただけで!別に、デカブツとやり合うのが怖い…なんてことは決して無いでござる…!」


「それで、本当はどうなんだ?」


「…………」


「どうなんだよ?」



「怖いぃぃぃぃ!!!なんで拙者がやらなきゃいけないでござるか…?」


 情けなくも悲痛な叫びも虚しく、段々と『砂の台風』とも呼べるそれの主の姿が明瞭に映り始める。


 全長30m、全高10mを越すトカゲのバケモノ。

 間違い無く強いのが、目に見えている。


 どう見ても上級のパーティが十分に用意して挑むのが懸命な相手。



「勝てるんだろ?」


 隣に立つ高身長、美男子が既に勝利を確信しているかのような調子で問う。


「知らん!…まぁ、でも一応やるだけやってみるでござる…。どうせ誰かが殺らねばならぬ相手、ならば今はただ斬る事だけに集中するでござる」


 俺はそう言って、懐から二本一対の鋼のを取り出す。

 そのの姿形は、まるでヲタク達が愛用する……『ペンライト』。



「了解。んじゃ、いつもの強化掛けとくぜ、『相棒』」


 隣に立つ男が両手を前にかざし始める。



「オッッッフ…/// 『相棒』…///」


「キモいな、おい……」



 『砂漠の星空』というロマン溢れる空気感にも、『強大な敵との対峙』という胸が熱くなるような展開にも似合わぬ雰囲気、口調。


 その男こそが、志半ばで転移した現役キモ豚ヲタクの俺、いや拙者 ─ 花宮柊馬はなみやしゅうま ー である。



 肝心のお隣イケメン畜生は、今は拙者の相棒、とだけ言っておこう。



 これは、拙者が道を極める物語。

 


 そして、『約束』を果たす物語。




「…ところで、そのってのはどうにかならないのか…?」


「無理でござる」

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