幕間

 東京。深夜のファミレスは空いていた。

 喫煙席側、窓際のボックス席に、客が一人座っているだけである。

 客はライターを取り出し、火を点けた。

 原稿用紙に、だ。


「……辰弥くん、意外と粘るわね」


 原稿用紙が焼け焦げ、縮み、黒い灰がロボット灰皿へと落ちていく。

 紙を握る指が、広がる炎に触れた。


 太い指だった。

 鋼鉄製の義手である。


 傷だらけで、持ち主に対して不釣り合いに大きい、鉄の義手。

 指は三本しかなかった。


 原稿用紙の最後のひとかけらが、その指ごと燃える。やがて火が消えると、指の間から灰が落ちた。ロボット灰皿はよちよちと駆け寄り、机の上の灰を綺麗にする。


 義手が、ロボット灰皿を撫でた。

 ロボット灰皿がくすぐったそうに身をよじる。

 義手の持ち主は薄く微笑み……灰皿のふちに触れて、なにかを外す。


 盗聴器である。


 義手の持ち主は、その盗聴器のメモリーを、自分の首筋に差し込んだ。



「『くれない』は確保、景平北斗の『遺稿』は焼却。成功といえば成功だけれど……うぅん」



 葉巻を咥えた唇が、不満そうに歪む。


「……彼、最期の舞台の邪魔」


 忌々し気に呟く碧い瞳が、黒い窓ガラスの向こうを睨んだ。





「パイルバンカーは、過去に壊され逝くべきだ」





 配膳ロボットが、その机にステーキを運んで来たが…………。

 客の姿は、消えていた。

 机上のロボット灰皿に、葉巻を一本だけ残して。


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