16撃目.自害
滝つぼに、鈴の音が響いていた。
落ちる滝の水が雨の水とまじりあい、激しい水音と共に跳ねて、舞い上がる。
水は霧に変わる。
霧に、濡れた紅葉が落ちていく。
女の足が、飛び出た根っこの上を踏み越える。また、鈴の音が鳴った。
「……慶四郎は、探偵さまが守ってくださるでしょう」
女の呟きと同時に、紅葉の枝が、雨にしなった。雨にしなり、軋んで、蠢いて。
枝が、鈴の音に手を伸ばす。
迫る枝の中に、人を吊るしたものがあった。
「後は簡単にございます」
華やかな着物が、紅葉の隙間で揺れている。
それは雨に濡れて、てるてる坊主のように揺れている。
「後は……」
鈴の音に呼応して、枝が蠢く。枝が蠢いて、吊られた人影が軋む。
「私の首で、きっと、あの子は……」
女はそれを見上げて、着物の帯から何かを取り出し、天高く掲げた。
鈴の音が鳴る。
「『くれない』さま―――――――」
枝が声に応える。枝が、女に迫る。
女は華やかな着物を着ていた。
女は頭に、てるてる坊主のような白い布を被っていた。
そして、その白く細い首に、紅葉の枝が絡みつこうとして――。
俺はそこに飛び込んで、女を突き飛ばし、一緒に転がりまわる羽目になった。
水深はくるぶし程度だったが、転がりまわれば全身びしょ濡れになるのは避けられない。
俺はマウントポジションになって、女の頭の白い布を剥ぎ取る。
「!?」
美魔女が驚く顔って間抜けだな、と思った。だが、そんな感想を言うより先に。
「――探偵さん! 沙友里さん、見つけましたよ!」
「でかしたぞ、辰弥くん!」
俺は探偵に向かって叫んだ。
探偵の声が、霧の向こうから聞こえた。
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