1撃目.銭ゲバ助手とロリババ探偵①
俺はよれよれのスーツのまま、探偵の対面に座った。
「辰弥くん。温泉デートに行こう」
「嫌です」
探偵は、俺の顔面に灰皿を投げつけた。
東京、深夜のファミレスは空いていた。
時刻は午前二時。外は雨で暗く、店内はとても明るい。黒く塗り潰されたような窓に、無人のドリンクバーを掃除する猫耳の配膳ロボットが映り込んだ。頑張っていて偉い。
俺も頑張ろうと思った。
対面の席に座る女の、危うげな誘いを断るために。
「……
探偵は、俺のフルネームを忌々し気に呼んだ。
俺はうなずこうとしたが、少し考えた。
レディという言葉が引っ掛かったのである。
レディ……たしかに、眼前の探偵はレディらしい顔をしていた。
外見だけなら、十四歳のあどけない少女。
髪はくすみ一つない純金色で、高飛車なお姫様みたいなポニーテール。
碧色の大きな瞳が細められる様は、まるで子猫が不満を訴えているかのよう。
睫毛は瑞々しく長く、肌は白人種の少女らしい健康的で美しい潔白さ。
苛立たし気にテーブルを叩く細指はピアノの演奏をしているように優雅で、小柄な身体は庇護欲を掻き立てられるようなか細さで、深窓の令嬢が如き儚い雰囲気を纏っている。
絶世の美少女。
あるいは、深窓に微笑む令嬢。
…………といった要素は、顔だけだ。
問題は、彼女の装備品の全てにある。
彼女が現在進行形で羽織ってるのは、年代物のドイツ製軍用トレンチコート。
ポニーテールを留めるのは、飾り気ひとつない黒のゴム紐。
そして何より極めつけは、右腕の『義手』だ。
鋼鉄製。磨かれた銃身を思わせる鈍色。無骨なデザインで、細かい傷が無数に入っている。指も腕も小柄な身体に全く似合わない不格好な太さで、その指も三本しかない。
専門家でない俺が見ても、先の大戦で実際に使われた品だろうと推測できる。
軍用トレンチコートと義手を揃えた彼女を表現する言葉には、『少女』より『軍人』が適しているように思えてならない。
彼女の名は、『シャーロット・ポラーレ・シュテルン』。
人呼んで、『パイルバンカー探偵』。
少なくとも……
「レディって歳じゃないでしょう、探偵さん」
探偵が見た目通りの年齢じゃないということは、誰の目にも明らかだった。
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