どこにありますか

 あなたは、そのショッピングモールを歩いています。休日の昼間にも関わらず、そこには人っ子一人いません。客はもちろん、店員すらも。

 華やかな入り口をこちらに向けた、無人の店の光景がひたすらに続きます。


 あなたは徐々に恐怖に駆られ、誰もいないショッピングモールの中を走り出します。出口に向かっているはずなのに、いつまでたってもたどり着きません。


 叫びながら手を振り回し、助けを求めます。あなたの手が陳列された商品に当たり、音を立てて床に落ちます。

 誰でもいい、助けて。そんなことを叫びながら、あなたはその場に崩れ落ちます。

 

 しばらくすると、座り込んだあなたの頭上から誰かの声が聞こえます。


「お客さま……ご迷惑になりますので」


 あなたはしばらくぶりに聞いた人の声に、喜びと安堵に満ちた顔でその声の主を振り仰ぎます。

 

 その男性は、モールの警備員らしき制服を着て、あなたを見下ろしていました。喜びもつかの間、貴方の顔は困惑と、再びの恐怖に歪むでしょう。

  

 その警備員は、人の身体に黒い犬の顔がついた、何者かなのですから。 


 このショッピングモールはどこにありますか。


 人の顔をした子犬が生まれ

 贄を選ぶ試飲サービスがあって

 読むと気が狂う本が置いてあり

 試着室は奈落に通じていて

 贄がピアノを弾いている

 

 私はどうしてももう一度あそこに行かなければなりません。行って彼にあわなければなりません。


 渡会颯太、私は彼に、もう一度会わなければなりません。どうしても、どうしても。


 このショッピングモールはどこにありますか。

 このショッピングモールはどこにありますか。

 このショッピングモールは


 どこに


 あ

 


 わたらいそうた



 ゆるさない

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る