[総ルビ]異世界転生して貴族だったけど孤児院に捨てられた私は這い上がる ～女の子だって薬草、キノコ、苺とか採取してスローライフしよう～(web版)

16 お姉さん

■16　お姉（ねえ）さん

　おっさんがついてくるつもりみたいだけど、どうしよう。

　剣（けん）だけ適当（てきとう）に使（つか）ってそれっぽくしてれば大丈夫（だいじょうぶ）とはいえ、逆（ぎゃく）におっさんが信用（しんよう）できなくて。

　さすがにギルドに出入（でい）りしている冒険者（ぼうけんしゃ）が新人（しんじん）を罠（わな）にはめて、奴隷（どれい）に落（お）としたり、変（へん）なことしてこようとしたりはしないと思（おも）うけど、分（わ）かんないよね。

「え、ああの……」

　なんとか回避（かいひ）したくて、あたふたしていると、片手（かたて）を上（あ）げてスッと近（ちか）づいてくる女（おんな）の人（ひと）が。

「なんだ、エミリー？」

　おっさんも女（おんな）の人（ひと）に気（き）が付（つ）いた。声（こえ）を掛（か）ける。

「なんだじゃないわよ。ドゴーグ」

「ああん？」

「いやだから、そういう態度（たいど）がだね。この子（こ）たち完全（かんぜん）に怖（こわ）がってるの分（わ）かんないかな？　だからいつまでもダメなのよあなたは」

「そ、そうなのか。俺（おれ）は普段（ふだん）からこんな感（かん）じだぞ」

「そうね。普段（ふだん）から普通（ふつう）の人（ひと）には怖（こわ）いように見（み）えるわよ」

「ま、マジか？」

「うん。ということで、私（わたし）がその任（にん）、引（ひ）き受（う）けましょう。ドゴーグじゃダメよ。女（おんな）の子（こ）に対（たい）して信頼（しんらい）がなさすぎる」

「ぐぅ、そ、そうか。……仕方（しかた）がない。了解（りょうかい）した、頼（たの）む」

「任（まか）されたわよ」

　ふぅ。おっさんに連（つ）れまわされるかと思（おも）ってたけど、なんとか回避（かいひ）できそうだ。

　この人（ひと）は少（すこ）しは信頼（しんらい）できそうだけど、一応（いちおう）。

　魔法（まほう）「鑑定（かんてい）」。

【エミリー・フラクタル】

　名前（なまえ）はさっき分（わ）かってたけど、苗字（みょうじ）も分（わ）かった。

　だからといって何（なに）か情報（じょうほう）が増（ふ）えたわけじゃないんだけどね。

　とりあえず偽名（ぎめい）ではないらしい。

　ちなみにこの世界（せかい）では、中流（ちゅうりゅう）以上（いじょう）くらいの家（いえ）なら苗字（みょうじ）があるのは一般的（いっぱんてき）だ。

　もちろん下層（かそう）民（みん）と孤児（こじ）とかには基本（きほん）苗字（みょうじ）はない。

　ステータス表示（ひょうじ）されなくて不便（ふべん）、ぶーぶー。

「ということで、私（わたし）が引率（いんそつ）してもいいかしら？　それとも引率（いんそつ）いらない？」

「あ、えっと……」

　サエナちゃんが周（まわ）りを見渡（みわた）す。

「あ、おねがいします」

「……引率（いんそつ）おねがい」

「お願（ねが）いしますにゃ、おねえちゃんにゃ」

　私（わたし）含（ふく）め、みんな賛成（さんせい）のようなので、頷（うなず）き合（あ）う。

「いいみたいね。改（あらた）めてお願（ねが）いするわ。私（わたし）はエミリー・フラクタル。C級（きゅう）冒険者（ぼうけんしゃ）ね」

「C級（きゅう）冒険者（ぼうけんしゃ）」

「そそ、一応（いちおう）Cランクだから、身元（みもと）はギルドが保証（ほしょう）してくれるでしょ」

「そうですね」

　特（とく）に変（へん）なところはない。

「いつもはメンバーと依頼（いらい）を受（う）けるんだけど、今日（きょう）は非番（ひばん）なの」

「あぁなるほど」

「ギルドの上（うえ）に泊（と）まっててさ、みんな先（さき）にどっか行（い）っちゃって置（お）いてかれたのよ、酷（ひど）いでしょ」

「そうですね」

「まあ、そういうわけで、よろしく」

　それで私（わたし）も納得（なっとく）する。

　Cランクくらいの冒険者（ぼうけんしゃ）が変（か）わり者（もの）でもなければソロでふらふらするものではない。

　まあ色々（いろいろ）な事（こと）情（じょう）があるからソロの人（ひと）もいると思（おも）うけど。

　全員（ぜんいん）がエミリーさんと順番（じゅんばん）に握手（あくしゅ）をした。

　この世界（せかい）にも握手（あくしゅ）はある。

　その手（て）は力（ちから）を入（い）れすぎたりもせず、優（やさ）しかったので、私（わたし）は信頼（しんらい）度（ど）を少（すこ）し上（あ）げた。

　脳（のう）筋（きん）の馬鹿力（ばかぢから）の握手（あくしゅ）は遠慮（えんりょ）したい。

「では、西門（にしもん）から北（きた）へ上（あ）がって、北（きた）門（もん）の外側（そとがわ）の森（もり）でいい？　あの辺（へん）は森（もり）だけどモンスターもほとんどいないし」

「はい、お任（まか）せします」

　私（わたし）も適当（てきとう）に答（こた）える。

　このお姉（ねえ）さんなら変（へん）なところへは連（つ）れていかないだろう。

　ギルドを出（で）て西門（にしもん）へ向（む）かう。

　街並（まちな）みは、どこも似（に）たような感（かん）じだった。

　一応（いちおう）中央通（ちゅうおうどお）りより南側（みなみがわ）のほうが庶民（しょみん）街（がい）、一番（いちばん）南（みなみ）がスラム一歩（いっぽ）手前（てまえ）のダウンタウンという感（かん）じになっている。

　本当（ほんとう）に無法（むほう）地帯（ちたい）のスラムはこの町（まち）にはない。

　それは領主（りょうしゅ）様（さま）つまり父上（ちちうえ）が女性（じょせい）は私（わたし）がいる女子（じょし）修道院（しゅうどういん）に入（い）れたり、冒険者（ぼうけんしゃ）ギルド経由（けいゆ）で仕事（しごと）の斡旋（あっせん）とか、あくせく気（き）を配（くば）っているかららしいけど、よくは知（し）らない。

　家（いえ）がない人（ひと）でも多少（たしょう）余裕（よゆう）があれば、職（しょく）を求（もと）めて王都（おうと）へ行（い）く人（ひと）が多（おお）いという理由（りゆう）もある。

　王都（おうと）は西側（にしがわ）のドリステン伯爵（はくしゃく）領（りょう）を超（こ）えて、そのさらに西隣（にしどなり）だ。

　歩（ある）いたとしても10日（とうか）は掛（か）からないと思（おも）う、たぶん。

　馬車（ばしゃ）で飛（と）ばすと、4日（よっか）くらいらしい。

　中央通（ちゅうおうどお）りの西門（にしもん）側（がわ）には朝（あさ）市（いち）が立（た）っていて、食料（しょくりょう）品（ひん）とかを売（う）り買（か）いしている。

　朝市（あさいち）という名前（なまえ）だけど、実（じつ）は夕方（ゆうがた）までやっている。

「すごい人（ひと）ですね」

「……人（ひと）いっぱい」

「人（ひと）ばっかりにゃぁ」

「そうね。朝市（あさいち）は人（ひと）が多（おお）いわね」

　みんなの感想（かんそう）もまあさもありなん。

　なんとか人混（ひとご）みを横目（よこめ）で見（み）つつ、大通（おおどお）りを通（とお）って、西門（にしもん）に到着（とうちゃく）した。

　門番（もんばん）の騎士（きし）さんと傭兵（ようへい）さんにこちらも温（あたた）かい目（め）で見（み）られながら、門（もん）を通過（つうか）。

「頑張（がんば）ってこいよ」

「幼女（ようじょ）ばっかり連（つ）れて、お姉（ねえ）さんも大変（たいへん）だな、あはは」

「行（い）ってらっしゃい」

「「行（い）ってきます」」

　とまあこんな感（かん）じで外（そと）に出（で）る。

　門（もん）のすぐ外（がい）は平原（へいげん）だ。

　近（ちか）くは伏兵（ふくへい）とかに囲（かこ）まれていないか分（わ）かりやすいよう意図的（いとてき）に木（き）が切（き）られている。

　そのまま西（にし）、王都（おうと）方向（ほうこう）に道（みち）は続（つづ）いているけれど、私（わたし）たちは脇道（わきみち）の北（きた）ルートへ向（む）かう。

「んじゃこっちだから、どっか行（い）っちゃわないで、ちゃんとついてきてね」

「「はーい」」

　みんなで引率（いんそつ）のお姉（ねえ）さんについていく。

　幼稚（ようち）園（えん）の送迎（そうげい）みたいだが、みんな腰（ごし）に剣（けん）を刺（さ）しているし、一応（いちおう）冒険者（ぼうけんしゃ）だ。

　城壁（じょうへき）を右手（みぎて）に見（み）ながら北上（ほくじょう）して、北門（きたもん）方面（ほうめん）に行（い）く。

　北側（きたがわ）は城壁（じょうへき）の内側（うちがわ）が森（もり）だったけど、外（そと）も森（もり）なのだ。

　ここがいわゆる外（そと）の森（もり）という場所（ばしょ）だ。

　森（もり）全体（ぜんたい）の大（おお）きさは、小（ちい）さな森（もり）の倍（ばい）くらい。

　その外側（そとがわ）には裏街道（うらかいどう）を挟（はさ）んで、木（き）が疎（まば）らに生（は）えた土地（とち）が広（ひろ）がっている。

「さて、今日（きょう）はなにが生（は）えているかな」

「薬草（やくそう）とかあるとうれしいですね」

「そうだね。この森（もり）は薬草（やくそう）は豊富（ほうふ）なほうかな。ホワイト草（そう）もサクラ草（そう）もあるよ」

「それは助（たす）かりますね」

「ええ」

　お姉（ねえ）さんと適当（てきとう）に話（はなし）をしたりして、森（もり）へ到着（とうちゃく）した。