『ショートショート』はたはた鍋
はた
【神回】わらしべ長者を真似してみた
大正時代の日本の静岡であった、嘘のような真の話。その男はある男がわらしべ長者として、大成したという噂を聞いた。これはそんな逸話を聞いて真似してみようとした男の話。
わらしべ長者とはご存知の通り、はじめは持っていた藁を物々交換していって、大富豪になったという有名な話。その噂は日本中に、一気に知れ渡ったのだ。
だがその真似男は、あまり詳しく聞いていなかったので、わらしべ一本で良いものを、友人の大柄な米農家から大量の藁を受け取る。仕方なしに大八車で一路、名古屋を目指す。
そして、まず初めの物々交換が行われることになる。それは納豆の問屋。納豆を作るのに藁は欠かせない。そこで藁を大量に運ぶ男を見かけ、問屋は藁を売ってくれと言って来た。
銭になるなら、さっさと銭にすればいいものを、男は律儀にその店の納豆と交換する。大八車一杯の納豆。匂いもあってか、すれ違う旅人たちは距離を置いたほどだ。
そんな彼は、この国では知らない者はいない相撲の大関、太刀風関と出会う。彼は無類の納豆好きだった。そんな彼からは、彼のまわしと交換した。ちょっと匂うまわしと共に旅を続ける。
次に出会ったのは大関、太刀風関の大ファンの淑女。彼女とは大切な着物と物々交換した。着々と進化している、二代目わらしべ男。静岡は、言わずと知れた茶の名産地。
豪商が着物を見かけ、交換を要求してきた。それはグラム30円の伝説の玉露。今でいえばグラム12万円の玉露!!だが、あまり賢くない男は、まだ交換を続ける。
彼は、日本のお茶にはまった南蛮の商人と出会い、玉露と万華鏡と交換。ここで初めての下落。だが、男は賢くないので気づいておらず、旅を続ける。
そこで万華鏡を覗いていると、川から河童がはい出てきて、河童の皿と尻子玉と交換する。生け捕りにすればよかったのに。流石に河童の皿と尻子玉の金額は分からない。
そして、終いには怪しい外国人とコーヒー豆と交換。しかし、彼はコーヒー豆を知らない。彼は上手くいかないものだと肩を落とした。だが、その豆の「袋」からは、香ばしい香りがした。
せめて豆茶を飲んでみようと、焙煎していない生豆でコーヒーを煎れる。だがそれが、運の尽き。それを飲んだ男は苦しみ出し、命を落としてしまった。豆には無数のバイ菌がついていた。
その豆茶は「死神印の豆茶」として知られることになる。普通に洗浄し、焙煎すればとても高価なものだったのだが。無知とは時に残酷だ。そして、その話をしていた落語家が締めに入る。
「いやあ、何事も二番煎じは大成しないものです。皆さまも資産運用は計画的になされた方がよろしいかと。御後がよろしいようで」こうして、寄席の緞帳が閉められた。今回も盛況だ。
その後にその落語家のYouTubeで【神回】わらしべ長者を真似してみた。という名の、動画の新作落語が挙がり、そこそこの閲覧数を稼ぐ。この落語は一番煎じといったところか。
その落語家はしたり顔でコーヒーをたしなんでいる。カフェのすぐそばの川から、河童の親子がその様子を見ているとも知らず。このへんないきものは、まだ日本にいるのです。 たぶん。
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