6-8

「ありすぎると私の頭が心がパンクするから困るけど、でも少しなら欲しい!えと、創作意欲が湧くから」


「……ああ、なんだ。そういうことですか」


 天の早口の訴えを理解したのか葵は頷くとそっと天の耳元で囁く。


「ドキドキしたん?」


「ひゃっ!」


 葵の方言と甘い声に天は恥ずかしさから耳を抑える。顔は真っ赤だ。そんな姿をみて、葵は思わず笑ってしまった。そして自転車を前に押し出すと、そのまま空を見る。星空が綺麗で思わず微笑んだ。


「大丈夫ですよ、赤音さん」


 そんな葵の声と姿に天の心臓はまた跳ねる。その顔を直視できないくらいに、すごくドキドキする。ケイトの言っていた「のめり込むな」という言葉の本質が今になってやっと理解できた。


「そのうち、こんなことも日常の1ページになるくらいの瑣末なことになりますよ」


 葵がふっと笑う。その顔を見ながら天は彼の言葉を脳内で反復する。日常的に瑣末なこと……つまり、当たり前にドキドキするのが普通になると?


 ーーなぜ?



「ええと、安岐くん?それはどういう意味かな?」


「言葉のままの意味ですよ」


「ちょーっと理解が追いつかないかな?もう少しわかりやすく」


「それは秘密です」


 悪戯っぽく葵が笑う。その笑顔がいつもと違い無邪気で思わず天もドキッとした。


 ーー安岐くんのくせに! そう心の中で毒づくも、やはりこのドキドキは慣れそうにないと天は思ったのだった。


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