5-2

「すみません。軽々しくそんなこと言っちゃダメですよ」


「そ、そうだね……ごめん……」


 葵の言葉に天も反省するのだが、なんだか胸がチクリと痛んだ気がした。しかし、それが何かわからないまま話は方言のことに変わる。


「そういえば、こないだ関西弁でてたね?」


「ああ……あの時は、つい。すみません、失礼なこと」


「ううん!新鮮でよかったよ」


 天はあの日のことを思い出す。葵が自分に対して言ってくれた言葉は本当に嬉しかったのだ。でもその反面、他の子には聞かせたくないなとも思ってしまう。その理由は謎のままだったが。


「俺大阪に住んでて、こっちにきた時に訛りがでると注目されるし、嫌なので。だから敬語にしてるんです」


「なるほど、敬語も似合ってたから全然気にしてなかったよ。でも、そっかそっか……惜しいな」


 天は本当に残念そうな顔をする。葵はわけもわからず困惑した。


「えと、なにがです?」


「安岐くんの関西弁、キュンとしたからまた聞きたいなーって」


「関西弁にキュン……?」


 葵は天の発言に困惑していた。まさか方言が気に入られるとは想像していなかったのだ。だが、少し考えこむ仕草をみせた後、ニヤリと笑う。


「なら、俺のお願いを聞いてくれるなら、また関西弁を聞かせてあげますよ」


「え、なになに?」


 天は身を乗り出す。関西弁効果がこんなにもあるのかと葵は驚くが、使えるものは利用しようと考えて、口を開いた。


「あのですねーー……」





 翌日。ちょうど祝日であり、学校もない。それなのに天は最寄りの駅にきていた。私服でだ。紺のTシャツにデニム。マスタードカラーのロングシャツを羽織って水色のスニーカーを履いていた。そして黒のラウンドミニショルダーバッグを斜めにかけ、待ち合わせの場所を目指して行ったり来たりしていた。

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