4-2

 剣道春季大会会場。意外と人が多いなと天は会場前で既に圧倒されていた。出場者だけでなく、見学もそこそこ多い。これはさっさと目的の試合を見て退散するに限ると天は思いつつ、受付で配られた出場リストを確認した。自分の高校を探し、安岐葵という名前を見つけ出す。本当に主将として名前がのっていることに天は驚きつつも、それを見に来ている自分にちょっと引く。


「じゃあ……えっと」


 葵のいる高校を見つけ出したはいいが、問題はどこで見るかだ。とりあえず二階席に上がってきたが、やはり人が多い。端の方からこそっと見ようと天は移動する。


 ちょうどタイミングよく、今から葵の試合が始まるようだ。え、もう大将戦なの?時間把握間違えた?いやいや、もともと彼の試合だけ見ればいいのだから時間などどうでもいいだろうと自分にツッコミを入れる。


 そして始まる試合。葵の様子は前に剣道場で見た時の凛々しさがありつつ、どこか楽しそうに見えた。そして、僅かな隙をつき葵は相手に面を打ち込む。

 試合は天が想像していたよりも一瞬で終わった。しかし葵は会場で歓声を浴びている。きっといい試合だったのだろう。


「やっぱ強いんだなぁ……あ、帰らなきゃ」


 葵の試合が終わった以上、自分がここに残っている必要はないと天は思った。すぐに帰ろうと二階席から一階ロビーに移り会場を後にしようとしたところで、誰かが声をかけてきた。


「あれ?赤音さん?」


 聞き慣れたその声に振り返るとそこには今まさに試合を終えて面を外したばかりの葵がいた。


「きてくれたんですね、ありがとうございます」


 その笑顔が眩しくて、天は視線を逸らしつつ「いえいえ」と返す。


「どうでした?俺の試合?」


「どうって……すごいとしか……」


「そうですか、よかった」

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