だから、今日も夢を見ながら空を飛ぶ

ぽぽ

第1話

「ほら、鳥さんだよー…」

 手に抱いた赤子に、鳥のおもちゃを羽ばたかせる。その子はキャッキャと笑い、鳥をつかもうと手を伸ばす。

 手が届きそうになったら少し遠ざけてというのを何回か繰り返し、そしてからつかませる。とても楽しそうに笑っている。その光景を見て幸福を感じるのは当然のことだった。まるで空を飛ぶよう。

「鳥さん、好きなんだねー…」

 つかんだ鳥を、やたらに振り回していた。ツギハギだらけの鳥の羽は、いとも容易く千切れた。

「鳥さん、飛べなくなっちゃったねー…」

 散らばったガワと綿を、両手でかき集める。ガワに綿を詰め込んで、本体の方とつなぎ合わせる。また一つツギハギが増えた。

「鳥さん、痛いって」

 羽をもがれても、またつなぎ合わされて飛べるようにする。それは、辛くて痛いこと。羽をもがれたのなら、いっそ使えないと切り捨てられた方がまし。

「次は、誰と遊ぼうかなー…?」

 問いかけても、当然答えは返ってこない。喋れないのだから当然だ。それでも返答を待ってから、箱に詰められたおもちゃの中から一つを選ぶ。

「次はカンガルーさんが遊んでくれるよー…」

 袋に子供を入れたカンガルー。これもツギハギだらけ。

「ほーら。カンガルーさんは強いんだぞー…」

 と言って、カンガルーの手で赤子の頬にパンチをした。赤子は嬉しそうに手足を暴れさせる。とても微笑ましくて、幸せ。まだ空に浮かんでいる。

「次はキックだぞー…えい!」

 カンガルーの足で頬を蹴った。その瞬間に、カンガルーがつかまれた。

「ああ、だめだよ…カンガルーさん。痛いって言ってる」

 さっき鳥にそうしてたように、カンガルーも振り回していた。右手をつかんで、上下へ、左右へ。

 そのせいで…袋に入っていたカンガルーの子が、袋から投げ出された。地面に音もなく落ちて、そのまま動かなくなった。

「うっ…おぇっ」

 吐き気がこみ上げてきた。クスリの効果が切れてきた。地面に、いや奈落の底に落ちるような錯覚に陥る。

 羽をもがれ、何度も縫い合わされた鳥。袋から投げ出された子供のカンガルー。それは嫌な記憶をフラッシュバックさせるには充分だった。

 手に抱いていた赤子はいなかった。もう顔も思い出せない。涙があふれる。嘔吐もした。

 早く、クスリをもらわないと。幸せな、空を飛ぶ夢を見るため。

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