第42話 きみに伝えたいこと。③
明くる日。
咲太郎は光にこれまでの事を謝って、正直な気持を告げようと心に決めていつもより早く登校した。
にわかに緊張しながら教室のドアを開ける。
けれどそこに、光の姿は今日もなかった。
あの日から、光とはメッセージアプリでも連絡はとっていない。
今までは光から『明日は休むね』等と連絡が来ていたのだが、あの日を境にその連絡もなくなっていた。ただ、関係が悪くなる前にテスト後は少なくとも暫く午前中は登校できると聞いていたのだ。
……とは言え、自分だってあんなに光の事を避けていたのだ。光だってもう咲太郎とは喋りたくないかもしれない。
翔真は「絶対に大丈夫!」と言ってくれたけれど、ちゃんと謝って自分の気持を言えたら、光が受け入れてくれなくてもちゃんと受け止めようと思っていた。
卒業まで、あと四ヶ月ほど。
しっかり謝ったら、光がちゃんと卒業できるよう、サポートに回ろう。
そう思いながら、咲太郎は光の登校を待った。
――が、ホームルームが終わっても光が登校する様子は無く、翔真にも聞いてみたが連絡は無いという。結局その日、光は登校せず咲太郎の心をざわりとさせた。
メッセージアプリに、『明日、学校に来る?』と文字を入れては消す。
光はそんな事を書かないと思いつつ、もし辛辣な返信が来たらどうしようと指先が何度も迷う。
自分が先に光を傷つけたのに、自分が傷つくのが怖いだなんてなんて自分勝手なんだろう。
メッセージアプリで今までの経緯を書くことも出来た。けれど、それでは光を傷つけた事に対して誠意が足りないと思えたし、ちゃんと面と向かって話をしなければいけないと思った。
たとえ、ぶつかったとしても、今自分達に必要な事はきちんと向き合う事だ。
それでも、お伺いを立てるメッセージをなかなか送ることができずに、明日もし光が学校に来なかったらメッセージを送ろうと咲太郎はアプリをそっと閉じた。
しかし、次の日も教室に光の姿はなかった。
「……急な仕事か?」
翔真が首を傾げるが光の予定など解るはずもない。そのうち担任の廣瀬ではなく、副担任が入ってきて「ホームルーム始めるぞ―」と皆に声をかける。
滞りなく通りホームルームを終え、副担任が教室を出ていく際に「委員長ー、次の授業の教材があるらしいから職員室にこの後来てくれー」と言われて、クラス委員長の冴島 ゆかりは席を立った。
「悪いなぁ、ちょっと重いけれど大丈夫か?」
もう一人助っ人呼んでくるか? と次の授業の教諭に言われたが、委員長のゆかりは大丈夫です、と答えて教材をよっと抱えた。
(うわあ……失敗したかも)
大丈夫です、と答えたものの両手で抱えなければならない量の教材はなかなかの重量だ。たまに抱え直さねば落としそうになってしまう。これは見栄をはらず男子の手を借りれば良かったかと、談話室の前まで来たゆかりはもう一度教材を行儀悪く膝で支えて抱え直した。
「――いや、しかしな、一ノ瀬」
(ん?)
突然聞こえてきた聞き覚えのある声と名前に動きを止める。
「あと4ヶ月だぞ? ここまで頑張ってきたじゃないか」
喋っているのは担任の廣瀬か。
(一ノ瀬くん、お休みじゃなくて面談してたのか)
咲太郎と光が喧嘩をしたらしい事は、みな口には出さないものの察してはいた。最初は咲太郎の方が光を避けていた気がするけれど、昨日は翔真と謝る云々の話をしていたから雪解けは近いとみんな思っていたのだ。
(一ノ瀬くんが成宮くんを嫌いになることなんて絶対ないもんね)
あとで咲太郎に光が学校に来ていることを教えてあげよう。そう思って談話室の前を通り過ぎようとした……が、
「……決めたんです。オレ、学校辞めます」
思わず持っていた教材を落としそうになる。
慌てて抱え直すとバクバクと鳴る心臓の音を聞きながら、とりあえず足早に談話室の前を通り抜けて廊下の角を曲がったところで立ち止まった。
「……ど、どど、どうしよう〜! 大変な事聞いちゃった……!」
ゆかりは荷物を抱えたまま途方に暮れた。
【つづく】
────────────────────────────────
☆ここまで読んで下さって有り難うございます! ♡や感想等、お聞かせ願えると大変喜びます!☆
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます