南へ
第39話
僕はぐったりとした彼女を眺めていた。
(まいったな。僕としたことが)
体だけの付き合いの女性はたくさんいたが、彼女はその誰とも全く違っていた。
抱いたときの反応も、声も、もちろん身体も。
何より、こんなに心を奪われる女性はいなかった。
彼女が愛おしく、決して傷つけたくないと思う反面、めちゃくちゃに奪っいたくなる。
月子が気を失っていたのは、せいぜい数分だったのかもしれない。
ぼんやりと目を開けるとアサトが隣にいた。
「…わたし…」
「ごめん、手加減できなくて。あまりにも君が可愛いから、つい無茶をしてしまう」
「…いいえ、私が駄目なんです、いい年して、ちゃんとついていけない。どうやって自分をコントロールしていいかもわからない。恥ずかしい…」
「そんなことはないよ、君は・・・なんていうか、すごく素敵だ」
僕は、彼女が特別だということを、どう上手く伝えたらいいのか言葉につまってしまった。
時刻は昼をまわるところだった。
月子は何とか起きあがり着替えた。隣のリビングで彼が誰かと電話をしている。
(仕事の話かしら、やはり無理してお休み取ってくれたのかな)
電話を切ると、彼女がリビングに入ってきた。白いシャツにジーンズが似合っている。そこらの家具にガタガタぶつかりながら危なっかしい。
「さあ行こうか」
野菜ジュースとクラッカーを食べ終えると、彼女の腕を取り部屋をあとにした。
ペントハウスから地下駐車場まで一気に降りると、きのう彼が乗っていたのとはまた別の白い外車が待っていた。今度はドライバーもいる。
二人は車の後部座席に乗り込み、月子は、
「こんにちは」
とドライバーに挨拶をした。
ドライバーは一瞬、意外そうな顔をしてアサトをミラー越しに見ると、笑みをうかべ無言でお辞儀を返した。
この車も窓は真っ黒で外からは全く見えなくなっていた。しかも、ドライバーと後部座席の間に電動の仕切りがあり、発進するとすぐに仕切りが閉まり、二人だけのプライベート空間になった。
月子は思わず聞いてしまった。
「この車はなんていう車なんですか?」
彼は微笑みながら、
「これは、リムジンだよ。大切な人の送迎とか、あとは仲間が多い時用に、会社の車だから」
(名前だけは聞いたことがある、とにかく大きい車だな)
と、月子は車内を見回した。
車は首都高に入っていった。
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