第一章 月影

月とバイクと

第2話

夏の終わりの夜。

私は、一人で高速の下り車線を走っていた。


どうしても乗りたくて大型バイクの免許を取って一年。

やっと公道にも慣れてきた。


東京郊外のインターから高速に乗り、山梨方面へ向かう。平日の夜にもなると車は少なかった。

それでも、やはり、はじめての夜の高速は緊張する。


徐々にアクセルを回し、走行車線の波に乗ってゆく。


(ああ・・・思っていたとおり、夜風が気持ちいいなー)


しかし、晩夏の風は思いのほか体温を奪っていく。


(革ジャンを着てきてよかった・・・)


アイアンハートの頑丈なジーンズに白いお気に入りの革のグローブ、クシタニのバイク用ブーツにフルフェイスの白いヘルメット。

この時期にしてはなかなか暑くるしい恰好だが、念のため装備は万全にしてきた。


月子(つきこ)は思わずにんまりとした。


バイクの規則的な振動とエンジン音、ヘルメットからのわずかな風切り音だけの世界・・・


自動車とは全く違うドライブ感覚に、全身の神経を集中させる。


しばらくして山間部に入ると、この先少し長い登り坂がつづくが、アメリカンタイプの1200ccの大型エンジンは子馬のように疲れを見せず駆け上ってゆく。


登坂車線のトラックを数台慎重に追い越すと、今度は緩やかな下りのカーブが見えてきた。


下りのカーブはまだ緊張する。減速してことさら慎重に走っていた。


(よし、今のところ大丈夫。リラックスしていこう・・・)


月子はそう自分に言い聞かせた。


月子のバイクは、このタイプにしては珍しくペダルがミドルポジションにあり、国産のネイキッドに近い乗り心地だった。


ハンドルも体に近い位置に設計されているので女性でも乗りやすい。


色はブラック。シルバーメッキが多く、購入して一年が経つが、まだピカピカだった。

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