転生勇者が僕らの故郷を破壊した。
王-wan-
第0話【プロローグ】
その昔、その強大な力を恐れられたことで彼らの故郷からも、またその近隣に住む”人間族”の国からも追われた”亜人”の一族が居た。
その一族は深い原生林に覆われた山脈の奥へとその姿を隠すように消えていき、決して未来の子孫が悲しむ思いをしないようにとその山脈の中心に国を建てた。
やがて時が経ち、外の世界を知る者たちの数を、新しくその地で生まれた世代の数が超えた頃、その国の南端に外の世界に夢を見る少年が生まれる。
少年の名は『レオ』
古い言葉で百獣の王を示すその名の通り、これはいずれ王となるその少年の物語。
――――ガゥルルルルル……
こちらを威嚇するように唸り声をあげる山オオカミに対し、”魔術”を発動し臨戦態勢をとる。
手から伸びる魔力の刃を構え、どちらが仕掛けるか間合いを図っていると、ついにその時は訪れた。
ザシュッという音と共に、落ち葉を足で掬い上げながら獣の巨体が宙に舞う。
飛び掛かってくる軌道を予測し、その鋭く大きな爪を身を捻って躱しながら横っ腹へと下から刃を薙ぎ払うと、獣はその剣筋に沿うように二つの肉塊へと変わった。
「ふぅ……」
「レオ! 凄いじゃないか!!」
命の奪い合いを終え、まだ自分の心臓が動いているた事安堵し、一度大きくため息をつく。
走り寄ってきた父さんが大きな声で僕を褒めながら、頭をワシャワシャと撫でてきた。
「へへ、ちょっと痛いよ父さん」
その勢いの良さに抗議の言葉で返すが、なぜか返事はない。
どうしたのだろうと不思議になり見上げると、父の視線は初めて山オオカミを狩った息子の僕ではなく、別の方向へと向けられていた。
「……父さん?」
「……ちょっと静かに」
もう一度声を掛けようとしてもそう遮られ、父さんの意識は彼の視線と同じく何か別の物へと向いている。
それが何かと目線を追いそちらに顔を向けようとしたその時、藪の枝をバキバキと折る音がしたと同時に僕の体は宙を舞う。
回る視界の中で何とか認識できたのは、藪から出てきた大きな影に対して”魔術”を発動させる父さんの姿だった。
突然の事に理解が追い付かないまま、僕の体は柔らかい土の上を転がっていく。
その勢いがなんとか止まった時にはもう、その突然の出来事はすべて終わっていた。
元居た場所を見ると、飛び出してきた大きな影の主である山イノシシは父さんの”魔術”により文字通り一刀両断され、半分に割られた巨体が山に転がっている。
やっと理解が追い付いた頃には「大丈夫か!?」と心配する言葉と共に父さんが走り寄ってきていた。
僕の体に怪我がないことを確認すると、父は辺りに転がる四つの肉塊を見て青ざめた顔をしている。
「あははははっ」
あまりにも唐突で瞬間的な出来事と、その表情から父さんが今何を考えているか分かり、この混雑した状況に笑いがこみ上げてきた。
「……笑うなよ……持って帰るの大変だぞ……」
「頑張るしかないね」
『狩った獣は持って帰らなきゃいけない』という山の掟は、重いからなどという単純な理由で破っていいようなものじゃない。
クスクスと笑う僕に父さんはめ息交じりに弱音を吐くが、不可抗力とは言え奪ってしまった命をここに放置して帰るわけにはいかない。
今日はいつもより帰るのに時間がかかることになりそうだ。
――――――――――――
「コラーッ!! あんた達はまた泥んこになって!!」
「そんな事より聞いてくれ、凄いんだコイツ! まだ成人前なのに山オオカミを狩ったんだ!!」
家に着くと母さんが泥だらけの僕らを見て開口一番に怒声を上げるが、重い荷物を運んでいるうちになぜかハイになっていった父さんはそんなことは気にも留めずに、興奮しながらそんな言葉を返す。
「あと二年で成人だからもうそんな子供じゃないよ。成人するまでに父さんみたいに一撃で山イノシシぐらい倒せるようにならなきゃ」
「……そんな上手に狩りが出来るのになんでそんな汚れるの! 今の見た目じゃ二人とも子供みたいよ!!」
勢いで何とかならないかと母さんの説教を無視して父さんの方へと返答してみるが、現実はそう上手くはいかないらしい。
「2人とも今すぐ水浴びしてきなさい! ついでにその服の泥もちょっとは落としなさいよ!」
僕らの言葉を無視した母さんのその言葉に、父さんと逃げるように井戸へと走った。
しかし今は怒っている母さんも、今夜山イノシシを食べる時には機嫌も治っているだろう。
山イノシシの肉はこの町の付近で獲れる獣の中で一番美味しいのだ。
サっと水浴びを終わらせた僕と父さんは、母さんの機嫌を少しでも早く良くするために、倉庫に運び込んだ獣を解体する事にした。
「よーし、やるぞ〜」
「待て! その前にやる事があるだろ」
古くからこの国の民は、獣に対し敬意と感謝を込めて手を合わせるのが習わしなのをつい忘れ、解体用のナイフを手に取った僕に父さんがそう言った。
父の言葉に習わしを思い出し、一度棚にナイフを戻して父さんが手を合わせ目を瞑る横でそれを真似る。
命を頂く感謝と生命への敬意を心の中で呟き、獣の魂が安らかに眠れるようにと祈る。
自らの言葉で言語化する事でその想いが伝わり、それは国の未来の平穏に繋がるという教えだそうだ。
「よし、やるか」
祈りを終えると父さんがそう言いながら僕の頭をポンッと軽く叩く。
顔を見ると何故か満足気に笑っていて、よく分からないがこっちもなんだか幸せな気持ちになった。
――――――――――――
「レオ、この辺の肉をあの二人の家に持って行ってやってくれ」
解体がある程度進んだところで父さんにそう指示され、肉を持って倉庫を出る。
隣の家の前まで行くと、父さんが言った「あの二人」が示す僕の幼馴染二人が談笑していた。
隣の家に住む、白い肌に夜の空の様な黒い髪が映えるミアと、そのまた隣の家に住む大きな体が頼もしい兄貴肌のウルスだ。
「あ、レオだ!」
「その肉どうしたんだ?」
「僕と父さんで狩ったんだ。こっちがオオカミでこっちがイノシシ」
「やるじゃん! 今日はごちそうだね!」
「流石は街一番の狩人とその息子だな!」
幼馴染の二人、ミアとウルスはお腹いっぱいお肉を食べられる事に喜んでいる。
二人の家は農業をしているため、普段野菜や果物が多く食卓に上がる事に飽きているのだろう。
「そうだレオ、明日みんなで釣りに行かない? 私とウルスだけじゃ親がうるさくてさ」
「レオが来るならいいよってまた母ちゃん達が言うんだよ。もう再来年には成人だっていうのにな」
「まあそう言わないで、きっと心配してくれてるんだよ。それに明日なら行けると思うよ」
狩りで山に行き慣れている僕がいれば二人の親も安心なのか、いつも『僕と一緒に』という条件なら、この二人は城壁の外に出ることを許される。
幸い今日大物が二匹も獲れたから明日は休息日になりそうだと考え、行けそうな事を伝える。
「やったぁ! なら明日約束ね!」
「レオならそう言ってくれると思ったぜ! そうと決まれば道具の準備しなきゃな!」
「あ、待ってよウルス! 私も行く! また明日ね!」
二人ともその返答に喜ぶと、気の早いウルスはもう準備を始めるらしく、彼の家の方に走り出してしまい、ミアもそれを追いかけて行ってしまった。
(明日も忙しくなりそうだな……)
彼らの勢いを見て、僕はそんな事を考えていた。
翌日、この予想は別の形で的中し、この平和な光景が一変してしまうとも知らずに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます