第82話
俺の嘲笑の意味に気づいた章弘が、焦って俺を呼び止める。
「レイちゃん、違う!聞いてくれ!」
「.…いい。わかってる。
かってに入って悪かったな。
………じゃあな」
「待っ、レイちゃん!」
聞きたくなかった。
もう期待したくなかった。
でも帰りたくもなかった。
自分の手をぎゅっと握りしめ、どうしようもない、それなのに次々と溢れてくる想いをやり過ごそうとした。
愛する人を守るために、自ら盾になった自分。
愛する人を守った代償なのか、記憶の亡くなった自分。
でも、愛する人は、人として最低な人だった。
人の想いも心も踏みにじる、最低な女だった。
そんな女のために、
俺は、これからを記憶のないまま。
こんな、空虚な想いのまま、
生きていかなければならないのか。
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