第28話

それからまた、思い沈黙が流れた。


たまに自嘲気味に笑って話をしていた男は、それでもお金を誰かに借りたり、闇金に行ったりはしなかったらしい。


もうこれ以上人として堕ちていくことが怖いと。



ーーーーーポタリ



男の固く組まれた両手に、一粒。


必死に耐えるように歯を噛み締めて。

全身全霊を使って抑え込んで。

震える大きな背中は、今だけ、とても小さく見えた。



ーーーーーXYZ



アルファベットの終わり「XYZ」、これ以上のものはないという意味が込められたカクテル。


しかし。


名前の由来とは違い、これでおしまいという最後の一杯に飲まれることが多い。



きっと、きっと。



今、この男は、生きようと思える最後の瞬間として、この場所を選び、来た。


何かの希望に、最後の最後。

ただ、すがりたくて。


幸せと温もりを求めて。

気づいてほしくて。



本当は叫んでいた。



愛してほしい。

受けいれてほしい。

ここにいることを認めてほしい。



だれでもいいから、どうか。



この想いを、どうかーーーーー

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