第20話

「あ、の……」



「好きだよ。好きなんだよ、本当に」



苦しそうに絞り出された声で、ぽつり、ぽつりと彼は言葉を紡ぐ。



「会えば会うほど。会うたびに、好きになった。休日、眠そうにぼーっとしてる顔も、たまに甘えてくる仕草も、友達思いなところも。

こんな図々しく家に押しかける俺にだって。

……すごく苦しい日もあって、ここに来た日もあった。

君にとって俺は怖いやつで、嫌なやつなはずなのに、君は大丈夫?ってココア出してくれたよね」



そういえば、そんな日もあった。

来るなり、玄関でいきなり抱きしめられた日があった。ごめん、少しだけって。


その後ソファに座っても彼はぼーっと天井を見えた。


いつも紅茶を出していたが、疲れてるのかな、何か悩んでるのかなと思ってココアを出した。

私自身、疲れている日や辛い日はココアを飲むことにしていたから。



「君の優しさにつけこんで無理やり側にいたのはわかってる。それでも…」



ーーーーー彼が、泣いている。





「……大丈夫?」



ハッと彼が顔をあげた。

溢すまいと目に溜めた涙と充血している瞳。

鼻も少し赤い。不安げにこちらを見ている。



私は、彼にゆっくり手を伸ばし、頰に触れた。




「あの……。私、最初怖くて。

でも、縁さんが毎日会いに来てくれて、少しずつ慣れて来たので、今は怖くないですよ?

だって、私の嫌がることはしないじゃないですか」



彼の頰に触れた手に、彼が手を重ねた。

愛おしそうに、壊れないように大事に触れてくるのを感じる。




「えっと…。突然好きだと言われても、何も返せませんが、えっと…。えっと、その…」



じっと見つめられる。不安げに揺れる瞳で。



「怖いこと、何もしないなら、全然、側にいてもらっても、大丈夫、です、よ?」



緊張で片言になってしまったそのセリフに、不安げだった彼の顔がやっと緩んだ。



ーーーーーーふわり


まるで秋を告げる金木犀の香りのように。

甘く、魅力的に。暖かく。



彼は笑った。






fin.

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