第6話

人とすれ違いざまにそんなことがかすかに聞こえた気がした。

そういえば、金木犀の甘い香りが漂っていると思った。

もう秋になるのか、、、。





そんな感慨にふけっていたせいで、気づくのに遅れてしまった。



後ろから伸びてきた手に口を抑えられ、そのまま裏路地へ引き込まれる。




「んんーーー!ん!んんーー!」



嫌、助けて、なんて声は届かない。

誰もいない真っ暗な場所まで引きずられると、そこに押し倒される。



かなりの力で倒されたせいで、背中が軋むように痛んだ。思わず呻いたが、それを気にかけてくれる様子はない。




パッと手を離され、口にはハンカチらしきものを詰められて、両手を片手で押さえつけられた。



目の前に、男がいた。

一重の鋭い瞳に、線の細い身体。ふわふわと風に揺れる髪は白に近い金髪。黒字に薄緑のカーディガンを羽織っている。

耳には左に3つ、ピアスが付いていた。



男は、私の襟を掴んで下へ引っ張り、露わになったその肌に顔を寄せた。



「んんーーー!!んー!んーー!」



嫌、やめて、なんて声は聞こえてくれない。


「……甘い匂いがする。ねぇ、君、名前は?」



男は、私の口からハンカチを抜き取った。

私は恐怖のあまりガチガチと歯がなり、答えられない。

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