第147話



「それじゃあ、俺らはそろそろ戻る」


「(あ、待っ…)」





私は急いで誠の袖を掴んだ。


もう車の方へ向かおうとしていた誠はそれに気づき、足を止めて振り返る。





「ん、どうした」


『ちょっとだけ、待ってて』


「…?別にいいが?」






私は誠の返事を聞いてすぐ、急いで自室に戻った。



机の上、今朝整備したばかりの銃。

それと、小袋に入れた予備弾を一袋。


包める布がなかったため、男装に使っていたパーカーでその2つを包んだ。








「(………………)」









そこで部屋を出ようとして立ち止まる。


もう一度部屋に戻り、昨日見つけたピアスの箱を開ける。



そのピアスを見下ろす。




ほんの少しそれをじっと見つめた後、それを右耳につけた。








…………"やっぱりな"。










ほんの少し苦笑しつつ、

包みを持って部屋を出た。











『ごめん』




急いで誠の元に戻り、謝りの言葉を手で示す。


誠は"気にすんな"と言って、ぜいぜいと息を吐く私を見て少し笑った。






「で、なんだ?」


『これ、幸架に』


「これか?」


『うん』





持っていた包みを手渡すと、誠は首を傾げつつもそれを受け取ってくれた。






「なんて言ってわたしゃいいんだ?」


「(………………)」













──璃久さん














………なぁ、幸架。


どういう意味でこのピアス渡してきたのか、私にはわかんないけど。



でも、頭のいいお前のことだ。

私がどんなに考えたってわかんないこと考えてんだろう。




でも、幸架が"私のため"にこれを渡したなら。


もし私のためじゃなくて、幸架のために私に渡したのだとしても。










《これ、サンキュー。

ありがたく着けさせてもらうわ》












私はゆっくりと手を動かし、最後に右耳のピアスをトントンと指で示した。


この動きをそのまま幸架の前で再現してもらうよう頼む。





これは、私と幸架が2人で仕事をしていた時に使っていたハンドサインだ。




だから、誠にはその手の動きが何かはわからないし、幸架以外には伝わらない。





首を傾げつつも、誠は"わかった"と了承してくれた。











『くたばんなよ?』


「そんなヘマ、すると思うか?」


『だよな。…行ってらっしゃい』


「…………あぁ。頼んだぞ」


『……了解』









誠は私の頭をくしゃりと撫でた後、車に乗り込んだ。








私とミツナは、その車が見えなくなるまで、

ずっと見つめていた。








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