第127話
渡されたメモを見て、組員が顔を曇らせる。
その表情を見て、心臓が嫌な音を立てた。
その表情は…幸架に何かあったのか?
メモをもう一度返してもらい、再び書き込む。
『怪我?病気?その
それでもやはり、組員は顔を曇らせるばかり。
不安が増していく。
もしかして、何か仕事で失敗を…。
いや、幸架に限ってそれはない…だろう。
自分にできないと思った仕事を引き受けるような人じゃない。
ちゃんと自分の技量を理解してる。
病気?
もともと肺は弱かったけど、病気ではなくあれは後遺症だ。
もしかして、弱った肺に何か感染した?
組員は答えてくれない。
多分、誰に聞いても答えてくれない。
不安は膨れ上がるばかりで、思わずメモを握りつぶした。
それを乱雑にポケットに入れる。
幸架は、…ずっと大事にしてくれていた私を傷つけてしまったことを、きっとずっと、…後悔している。
もしそのせいで仕事に集中できていなかったとしたら。
もし、何かの折に私を傷つけた時のことを鮮明に思い出すような出来事に遭遇したとしたら。
そのせいで、怪我をしていたら。
後になって思えば、私はこの時、
ちゃんと思考ができる状態じゃなかった。
普通に考えれば、
私を救出に来たのが木田達で。
木田達は私の失踪に気づいたから来たわけで。
私の失踪に気づいたということは、真っ先に幸架に確認を取っているはずであって。
ということはつまり、私と幸架に何があったのか、すでに知れ渡っていることくらいわかるはずだった。
まともな思考ができていなかった私は、
この時ありもしない最悪な状況ばかりを考えて。
必死だった。
だって…。
幸架の話を聞きたいと思っていたんだ。
今度こそちゃんと聞くんだって、思っていたんだ。
点滴の針を無理やり剥がし、部屋を飛び出した。
私を呼ぶ声がする。
それを無視して走った。
だれか、幸架の場所を教えてくれそうな人はいないか?
誰か、誰か、誰か…。
誰もいなかったとしても、何か手がかりがあるかもしれない場所は…っ。
……………あそこなら、何か手がかりがあるかもしれない。
私はルナの日本支部を飛び出し、
さらに走り続けた。
大慌てで私を止めようとする手がたくさん伸びて来たが、それを全部かわして走る。
"嘘だろ…"という声も聞こえなかった。
"おい!待て!"という声も聞こえなかった。
"無茶するな!"、という声も、耳に入らなかった。
ひたすらに、
失うことが怖かった。
"大丈夫ですよ"と、
元気そうに笑う顔を見て、
安心したかった。
側にあるのが当たり前の温もりだった。
ただひたすらに、
会いたくて。
何も考えずに走り続けた。
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