第110話
〜・〜
現在 璃久side
窓もなく、カレンダーも時計もない。
四六時中つけっぱなしの電気をぼんやりと見つめる。
今が昼なのな夜なのかもわからない。
ベッドと自分の足は鎖で繋がっていて、その長さ的に私が動けるのはこのベッドの上が限界だ。
体は治った。
でも、アズサが"お姉さんに手出したら、ここの機密情報漏らすからね?"と言ったおかげで何もされずにすんでいる。
"私は大丈夫だ。アズサはまだ子供だし、もともと私が巻き込んだようなもんだろ?
逃げれるなら早く逃げろ"
と、何度も言ってはみたのだが、アズサはにっこり笑みを向けてくるだけだった。
最初は、監禁中に情報を漏らすなんてできるわけないだろ、と鼻で笑われた。
しかし、"実は、仲間がいるんだよねぇ?君らの中に"、なんてことをアズサか言ったことにより、私には手を出さないことが決定された。
どうやら奴ら、内部にいるらしいアズサの仲間を見つけられなかったらしい。
ふぅ、とため息をついた。
アズサのことも心配だが、自分のことでも不安材料があった。
声が、出ないのだ。
私の体は治った。
でも、声は出ないままだった。
拷問されても、何も話すことはできない。
だから、体が治った今でも、私が拷問にかけられることはなかった。
そんなこんなで、私は1日中ベッドの上でぼんやり天井を見ることしかできないのだ。
アズサはほとんどこの部屋に帰ってこない。
眠る時だけここに放り込まれ、私が起きる頃にはもう連れていかれている。
最初の頃は、ふらふらになりながらも自分で立って歩けていたアズザ。
最近は、会話はふつうにできるものの、立ち上がることさえできないほどぐったりとした状態で担がれてくるようになった。
「おらよっ!」
ふと、ガチャンという重々しい音とともに扉が開き、アズサが投げ込まれる。
アズサを投げ込んだ男は、そのまま扉を閉めて行ってしまった。
「痛いなぁ…。扱い雑すぎじゃない?」
「(アズサ…。大丈夫…じゃねーよな)」
「ん?大丈夫大丈夫。
そろそろお姉さん、迎えくると思うよ」
「(迎え?)」
「うん」
アズサは這いつくばるように床を進む。
私も、手が届く範囲までアズサが来たところで、アズサの手を引っ張った。
それからアズサに肩を貸して立ち上がらせ、ベッドに下ろす。
「(………迎えって、誰が?)」
「君のおとーさん?」
「(木田が?…来るわけねーだろ。
私の父さんは公私混同はしねーよ)」
「いやいや。絶対来るよ。
ほら、今すぐにでもさ」
「(そんなわけ、)」
と、噂をすればなんとやら。
上階から大きな物音がした。
思わず上を見上げて固まる。
「(………)」
「ね?来たでしょ」
「(マジか。いや、マジか。……マジか…)」
「お姉さん大丈夫?突然語彙力が新生児以下になってるよ」
物音はどんどん大きくなり、さらに悲鳴まで聞こえて来るようになった。
それにしても…、騒ぎが大きすぎないか?
なんか、殴り合いの怒号って言うより、恐怖の悲鳴に近い声な気がするんだが…。
壁が厚いせいで細かな声や言葉は聞こえなかった。
「………お姉さん。僕は、…死ぬかもしれない」
ふと、アズサがそんなことを言い出した。
私の心臓がドキリと嫌な音を立てた。
「(っ!あんた、やっぱ無理して、)」
「迎え、お姉さんじゃなくて僕の方だった…」
「(は…?)」
「お姉さん、僕殺されそうだよ…。
どうしよう。やばい……僕の人権はことごとく意味をなさなくなってしまうんだ」
「(………何言ってんだあんた)」
相変わらず上は騒がしい中、アズサの顔色──と言っても最初から顔色は悪かったが、さらに蒼白な色へ変わっている。
「あぁ、大丈夫だよ。お姉さんは大丈夫。
ちゃんと今日君のおとーさんが迎えににてくれるから」
「(は…?いや、私よりアズサの方が体やばいだろ)」
「僕の体はなんの問題もないんだよ。
……いや、あるね。あるんだね…。
どうしよう。ねぇお姉さん、なんとかして僕を隠してよ…」
「(ちょ、落ち着けよ!どうし、)」
「あああああああっ!!
来ちゃう!そろそろ来る!
どうしよう。本当にどうしようぅぅぅ!!」
「(本当に大丈夫じゃねーだろ!
すでに発狂してんじゃねーか!)」
もはや、隠れられるわけのない毛布にミノムシのようにくるまり、頭を抱えて震え上がるアズサ。
そんなにとんでもないヤツが迎えに来るのか…?
それって味方なんだろうか。
というよりそもそもそれは迎えなのか?
こことは別の組織にさらに二重誘拐される、なんていう笑えない状況が生まれるとか、そういう可能性もあるんじゃないのか?
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