第81話



ケタケタと笑う私はきっと、もう今までの自分には戻れない。


もとより、璃久に手を出した時点でもう私は"幸架"には戻れないのだ。






じゃあ、今の私は何か?







ただの、壊れた道具だ。

自分でも制御できない本能と力で。


自分どころか、なによりも大切な人さえ殺そうとした。




私こそが、きっと誰よりもバケモノなんだ。








「よかったな。実験は成功してたんだ。

見ろよ!こんな道具殺人機が欲しかっだんだろう?」



「………っ、…」





完全に歪んだ開理と木田の顔。


拘束具を壊したせいで、2人の後ろに控えていた組員が銃を構える。

しかしその手は酷く震え、使い物になっていない。




そんな状態で撃たれても、かすり傷ひとつだってつけられないだろうに。






俺の話をやめさせようと開理が口を開くが、それをさえぎって口を開く。




「あの実験の目的、確か記憶媒体の育成と"最高の殺人兵器の完成"、だったかな」



「……さち、」



「人を殺すことに何の背徳感も抱かず、それどころか快楽まで感じるようなモノで、」



「……やめっ、」



「でも殺すことだけを考えるバカじゃなく、ちゃんと確実に標的を殺せるようにある程度の知能もある」



「幸架っ!」



「知能は弟ほどないけど。

まぁ"見ての通り"、俺に知能は必要ない」



「もういい、幸架。もう、」



「もういい?何が?

そうやってまた逃げるんだ。楽だもんな。

知らないふりして逃げるのは」



「…………っ」






いつだってそうだ。


開理がしてきたことは、いつだって人のために見えて自分の利益のためでしかない。




木田もそうだ。


人を殺せない裏組織の最高司令官。

"父親殺し"、なんて話は聞いたことあるし、本人からも聞いた。




でも、








「なぁ、最高司令官様。

俺はさ、あなたが"父親なんて殺していない"ことを知ってるんだ」


「………っ」






ハッ、と木田が息を飲んだのがわかる。


隣にいた開理は知らなかったらしく、バッと木田の方に視線を向けた。





「木田…?お前、どういうこと、だ…?」


「……………」


「だって、……お前、自分で殺したっ、て…」


「……………」







木田は答えない。


眉間にしわを寄せ、俺を睨みつけている。

その拳は、力がこもりすぎているせいで震えていた。






「説明してないんだ?親友に」


「……っ、それ、は」


「また親友騙して1人でいいとこ取り?

それで都合が悪くなれば投げ出すのか?

それともまた殺す?

…それ、本当に親友って呼べるものなのか?」


「………っ、……そういう、わけじゃ」


「いつも胸張って話すのに、今日は珍しく歯切れ悪いんじゃない?

まさか俺が知らないとでも思ってた?」


「……っ…」


「あははっ!それは傑作。俺は道具なのに?

それも、あなたが命令して造った"あなた方の道具"なのに」





木田は何も言い返してこない。



地下牢の空気が淀んでいく。

重く、暗く、湿った空気が、空間を支配するように。






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