第28話



「湊さん、璃久さん、おかえりなさい」


「2人ともずぶ濡れじゃないか!ほらほら、お風呂はいっておいで」


豪雨で濡れた俺と璃久を見て、幸架と開理が慌ててタオルを持って玄関にきた。

それを受け取って軽く体を拭う。


「俺はいい。…璃久は入ってこい」


「え。俺はいーから湊さん入ってこいよ」


「お前が体冷やしたら困るだろ。…幸架が」


「なんで俺が困るんですか」



あはは、と幸架が笑う。

俺は別に変なこと言ってないが?



「なんでって、…璃久が風邪ひいてお前に恨まれんの嫌だし」


「え?」





え…。

なんだ、この空気。

微妙な…え…。


俺、なんか地雷踏んだか?

別に間違ったことは言ってねぇと思うけど。



「湊。それじゃあ2人が付き合ってるみたいだろう?」


「え、違うのか?」


「え??」




…………………。

開理の目がパチクリと瞬く。

璃久と幸架もポカンと口を開けたままだ。




「あ、俺の勘違いか。悪りぃ」


「え、あ…いや、……えっと、」




開理と璃久はいまだにポカーンとしていて、幸架は赤くなってあわあわしている。



どうやら、本気で地雷だったらしい。




「……璃久、風呂行け」


「そっ、そうそう!というか、2人で入っておいでよ。湊も体冷えてるだろ?」


「は?なんで俺が一緒なんだよ」


「待ってる間に冷えるだろ?」


「……お前、デリカシーのかけらもねぇな」


「デリカシーも何も、男同士で入ったって別になんともないだろ」


「…………本気か」




思わず頭を抱えたくなってしまった。

そして気づいてしまった。


こいつ、とんでもないアホだ。



「……おい、お前ら。

開理は本当にお前ら育ててきたんだよな?」


「えぇ…」


「……そーだな」


「じゃあなんで知らねぇんだよ」


「……いや、なんででしょうね。

まぁ、脱ぐことなかったですし…」


「…………いや、それでも普通わかるだろ」




というか、体格でわからないのか。





「おい、バカ親父」


「バカとはなんだ!親父と呼んでくれたのは嬉しかったけど」


「璃久は女だ」


「そんなことは……え?」


・・・・・・・。


「え……えええええええ!!!

嘘だろ!なぁ、璃久!嘘だろぉぉぉ!!」


「いや…あの、えー………女だけど」


「うそだぁぁぁぁぁぁ!!!」




開理の絶叫が家中に響き渡った。




「うるせぇ。

というか、どう見ても俺らより小さくて華奢だろ。

なんで人体の研究者がそんなことに気づかねぇんだよ」


「いや、本当に男だと…え、えぇぇ〜…。

だって声とか…話し方とか、力だって…。

えぇぇ〜……。

湊だって璃久を男として接してただろ⁉︎」


「男として生活したいみたいだったから合わせてはいたけど…。

まぁ、女にしてはガッシリしてるほうか?

……それにしたって風呂は無理だろ」


「うそだぁぁぁぁぁぁ!!!

俺は信じない!信じないぞ!」


「……失礼だなおい。

璃久、風呂行け。

こいつはもうどうしょうもない」


「あ…了解?」



適当な服を押し付けて璃久を浴室に押し込む。



バカだバカだとは思っていたが、ここまでとは…。

しかも、自分の親だと思うと悲しくなる。




「…おい」


「マジか…マジかぁ…うわぁ〜、俺ひどいことを…。あー!幸架と風呂入ってこいって言ったことも…あったな…。うわぁぁぁ〜」


己の人生の全てを悲観している開理を見て、俺と幸架は冷たい視線を向ける。


「……ダメですね、これは。

もう少し放っておきましょうか」


「はぁ…。そうだな」



開理は6時間このままだった。

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