第26話



実はこの1ヶ月、耳に通信機をつけてきている。

髪が長めのため隠れているが、幸架のパソコンに通じている。



AIが俺らを狙っているのなら、洗脳してくる可能性があると思った。


音が聞こえた時点で幸架が録音、俺は通信機を外す手はずになっている。


その音を解析すれば、俺らをなにに使いたかったのかがわかるはず。


万が一洗脳された時は俺の後ろをついてきている璃久が俺を撃ってくれる。


洗脳されたかどうかは、通信機から開理が俺の脳波を常に測定しているから、それでわかるはずだ。



今の所何も聞こえない。




璃久が撃ってこないということは、いまだに動きはないということだ。





「湊さん。連絡手段は…」


「あー、これ」



ぽん、と筒を渡す。

大きさは小指程度だ。



「これ、は?」


「ここに紐ついてるだろ。これ引っ張ればすぐ行く」


「いや…これ、もしかして電波行くようになってます?でも、AIが妨害を…」


「電波は使ってない。でもわかるから問題ない」


「は…?」



渡したのは狼煙だ。

現代ではこんな連絡手段使わないだろうから、見覚えのある代物ではないだろう。


近況さえ把握できればいつ呼ばれるかは予測できる。

あとは、これで来るから、と適当なものを渡せばいい。


実際それで応援要請は受け取れるはずだ。



……まぁ、そんな正直に教えてやるつもりはないが。


面倒だし。




「…幸架。動きはあるか?」


『ルナがゼロを追っているようです。

……ですが、無名組織の残党がゼロを捕獲したとの情報が』


「……残党が?…なんでわざわざついていったんだ」


『わかりません。今ゼロがどういう状態なのかは把握できいないです』


「わかった。少し休め。これから戻る」


『了解。お気をつけて』




客に紛れている璃久に視線で合図を出す。




──出る。


──了解。




手に持っていたグラスに残っていた、0が注文したXYZを煽る。




「ごちそうさま」



グラスをバーテンに返し、コースターをポケットに突っ込む。



「……またおいで」


「………」



振り返ると、バーテンダーがこちらを真剣な瞳で見つめている。



「……なんか奢ってくれんの?」


立ち止まり、ふっと笑って見返すと、バーテンダーも笑った。



「えぇ。まぁ、私じゃなくてさっきのお客さんがあなたに奢りたかったみたいですよ」


「さっきの……女か?」


「ほら」



机に置いてあったお代を指してバーテンダーが言う。


そこには、一万円が置かれていた。

一杯の料金にしては多すぎる。



「……いつ来ればあいてる?」


「そうですね…。2週間後に」


「……わかった。また来よう」


「お待ちしております」




俺たちの会話を訝しげに澤部たちが聞いている。


聞かれても答えるつもりはない。

これは、俺とゼロの駆け引きだ。




店を出て、歩きながらコースターを見た。

誰にも見せるつもりがなかったのだろう。

適当に、流れるように書かれた筆記体。




"I am a liar.

There isn't my understanding person."



裏にも別な文字が書かれている。



"No one loves me.I can love no one."




びっしりと文字が書かれたコースターは、少しだけ湿っている。


四つ折りにして両手で包み込む。


これが、本音なのか。

ずっとこんなことを考えていたのか?





ずっと、ひとりぼっちで…。





彼女がこれを書いている姿をバーテンダーは見ていたのだろう。

俺をじっと見てボソッと、コースター、と口を動かしたのを見た。





こんなものを残すなんて、らしくない。

それほど彼女は限界に近いのか。




早く、探し出さなければ。







豪雨が体を打ち付ける。

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