The heart which shakes.

第25話

湊 side




「湊さん、ですよね」


「…………」



対策本部の構成員であるらしい澤部が俺に話を始めると、ゼロは俺の手をそっと離した。


今はまだ、一緒に帰るのは無理ってことか。



離す前に一瞬だけきゅっと強く握った。




「あなたの知恵をお借りしたいのです。

我々にはもう限界で…。

他の国でも協力要請を呼びかけているのですが、なかなか集まらなくて…」


「……………」


「それと、あなたはNo.000と繋がりがあるとお聞きしました。

彼にも協力を要請しようと思っているのですが…」


「……あいつは動かねぇよ」


「いや、しかし国からの命令ですし」


「あいつはあいつで動いてる。

あいつにとっては国なんてどうでもいいだろ」


「なっ…」



ふっと視線を裏口に向ければ、ゼロが振り返った。

目が合う。

ゼロの目がすっと細められ、ほんの少し唇を噛んで目をそらした。




目が合った瞬間、まずい、という顔をした。

というか、振り返るなんて行動した時点でミスをしたと気づかないのだろうか。



振り返らずそのまま出ていけばよかったのに。

あんな泣きそうな顔して。




「あの…湊さん?」


「……お前らに協力するのは断る」


「何故ですか!」


「協力はしないが、一緒に動くくらいならいい」


「………どういうことですか」


「俺には俺の目的がある。協力はできない」


「………我々にとって、あなたの行動はプラスですか?マイナスですか?」


「さぁ?……まぁ、強いて言えば、」



しまった扉をそのまま見つめる。

彼女が飲んでいたグラスは、まだ中身が残っていた。





──はるは、いつも同じものを飲んでるんですよー





いつだったか、ゼロの──ハルカの友人がそう言っていた。






彼女がいつも飲んでいたのは、"XYZ"。


"もうあとがない"。





「湊さん?強いて言えば、なんです?」






グラスを片手にとった。

どんな思いでこれを飲んでいたのだろうか。




「強いて言えば、ゼロ、だな」







あいつはなんのために動いているのだろうか。

殺す、と言っておきながらなんの動きもない。


また1人で動いているのは確かだ。




「……我々に損失がないのなら、いいです」


「………あぁ」


「何か、条件はおありですか?」


「条件?」


「月給とか、前払いとか…成功報酬とか…」


「あぁ、金か」


「…ほかに何かあれば、こちらで用意できるものは用意しますよ」


「……そうだな」




外は土砂降り。強風で看板が飛ばされる音もする。




「蜘蛛と手を組め」


「く、蜘蛛?」


「蜘蛛は構成員も多いしわりと常識もある方だ。

裏と手っ取り早く繋がりが欲しいなら蜘蛛と組むのがいいだろう」


「……裏組織を信用しろ、と?」


「俺の提案だから、向こうの指定金額は俺が出す。

信用できるかどうかわからないなら俺がお前らに混ざって一緒に行けばいいだろ」


「あなたが出すって…。

あなたの損しかないじゃないですか」


「別に。あぁ、俺に金を払う必要はない。

それより、表の情報が入り次第くれたほうが有難い」


「……それでは割に合わないのでは?

こちらはあなたに頼ることが多くなります。

裏切られては困りますし、依頼という形であなたを雇いたい」


「今こんな世の中で金なんてもらったってなんも意味ねぇよ。

何の役に立つ?

俺に払うなら情報屋に払え」



澤部はグッと黙り込む。

とりあえず俺が敵に回らずに済んだことにホッとしたらしく、緊張した空気が緩んだ。




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