49 時を狂わす懐中時計

「ヒヒヒ! ヒヒヒ!」


 仮面の科学者は狂ったように笑う。


「また会ったな、仮面野郎」


 クルマから降りてきたタツロウが、仮面の科学者に銃を向ける。


「また貴方ですか。いつも私の邪魔を!」

「あ? それはこっちのセリフだ! 要救助者を助けようとする度に何度も現れやがって!」


 銃を足元に撃つ。


「ヒヒ! 救助隊の人が、局員を撃つのですか?」

「要救助者を守るためなら、例え相手が局員だろうと、邪魔する奴は躊躇ちゅうちょなく撃つぜ、俺はな!」


 タツロウとその後ろにサトウ、そして左右から私とアイリスと、仮面の科学者を包囲するようにじわじわと詰め寄る。


「ヒ!」


 その時、仮面の科学者のカバンの底が破け、虹色に光る小さな金床が落ちてきた。


「あ!!!」


 夢羽がそれを見て大声で叫ぶ。


「びっくりした……どうしたのさ」

「あれ! あれ! 取り返して!」


 夢羽がしきりに金床を指している。


「ヒヒ! 霊神様の!」


 仮面の科学者をそれを拾い上げる。


「夢羽の!? それを置いていきなさい!」


 私は科学者の両手を撃った。

 非殺傷弾が命中し握る力を失ったようで、金床と懐中時計が床に落ちた。


「ヒ! 時を狂わす懐中時計! これがないと! しかし、この手では……! いや、これさえあればまた作れる!」


 仮面の科学者は懐中時計を拾うのを諦めたのか、金床を両手ですくう形で持ち上げる。


「待て!」


 私を含め、4人で仮面の科学者に一気に詰め寄る。


「そうはさせないデス!」

「団長を助けるですよー!」

「うわ!? 退却!」


 すると突然屋根の方から聞いたことのない高めの声が聞こえ、その直後屋根の上から大量の狂人が落ちてきた。

 私は懐中時計を拾い、近づいてきた狂人を頭を撃ち飛ばす。

 サイリウムの光が消え、薄暗くなった。


「迎撃しながら退くよ!」

「りょーかい(です)!」

「指図されなくてもわかってるわよ~」

「灯りが消えた! こっち! ついてきてー!」


 夢羽の先導で、アイリス含め全員が退却をした。

 そして家の外に出て、広めの路地に出た。

 夢羽はまた光が強いサイリウムを折り、道端に投げる。


「捕まえ損ねたじゃないのよ~!」

「しょうがないじゃん! この狂人の群れはあの場で対処できなかったよ!」


 アイリスは再び2本の剣を地面から抜き、それで狂人を裂く。

 私はつくちゃんに散弾銃へと変えてもらい、それで狂人の下半身を撃つ。


「ははは! これじゃB級映画だな!」

「笑い所じゃないですよ! これじゃ、私達も狂人の仲間入りです!」


 タツロウは火炎瓶を投げ、サトウは拳銃で応戦している。


「カットカット! B級とはなんだ! B級とは!」


 突然カンカンという木と木を叩くと鳴る音が響き、狂人達が一斉に大人しくなった。

 成人前の若い子が1人そこに立っていた。


「え? えー!?」


 驚いて銃を手放しそうになるサトウ。


「今のうちに斬ってもいいかしら~?」


 何か物騒な事を言っている切裂き魔アイリス。


「今のうちに燃やしてもいいか?」


 こっちにも物騒な事を言っている放火魔タツロウ。


「映画のワンシーン?」


 冷静に分析? している夢羽。


「こいつらって狂人として用意されたエキストラじゃないよね?」


 そして冷静に確認している私。


「違うけど、僕の映画に出演したいってやってきた人達だ。ちゃんと全員使うのが監督の仕事だ」


 夢の主だと思われる人物が、ドヤ顔を決めている。


「それだと支離滅裂しりめつれつになりそうな気がするんだが……」

「うん、B級だね」

「いや、B級よりひどいのができると思うぜ」

「それよりもあれ、片付けてもいいかしら~?」

「わ! わわ!」

「だまらっしゃーい!」


 まとまりのない集団が、夢の主と思われる人物の一喝で静まり返る。


「えっと……夢の主さん?」

「やはりここは夢の世界か」


 あら、ここでも明晰夢めいせきむフラグ。


「うん、夢の世界ですね。それで、主さんは何をしているのですか?」

「何って、映画撮影だよ。お前達エキストラが主役っぽく動き回るから、撮りながら追いかけ回していただろ?」


 どうやら感じていた視線は、夢の主のカメラだったようだ。


「なるほど……。それで、他人に危害を加えてたってわけね」

「他人とは誰だ? ここは僕の夢ではないか」

「夢でもね、そこに出てくる人は無下に扱ってはいけないんだよ」

「う……はい、すいませんでした」


 夢の主は頭を下げる。


「はい、よろしい。私達、郵便配達員なんだけど、これ貴方へのお手紙だよ」


 タツロウが持ってきた手紙も含めて、2通の手紙を渡した。

 夢の主は宛名を確認した後、それを開封する。

 すると、いつものようにビジョンが頭の中によぎる。

 撮影をしている夢の主と、その後ろでサポートをしている人の姿を映し出された。


「あ、あと少しで邪気がいなくなりそうよ」


 夢羽は目を瞑っている。

 おそらく、本体のいる世界の状況を見ているのだろう。


「邪気がいなくなる〜?」


 アイリスが興味津々の様子で私達に近づく。


「あれ? 言ってなかったっけ。夢羽は、輪廻の世界で邪気に捕まってるんだよ。それを助けるために、私は手紙配達をしている」

「じゃあ夢羽様はまだ、完全に復活はしていないってことなのね〜」

「まあ、そんな感じ」

「ふーん……」


 アイリスは考え事を始めた。

 すると、


「うん〜?」


 アイリスのカバンから、端末の着信音が鳴り響く。


「どうしたの〜?」

「あの2人、逃したです!」

「姉さんがヘマしたからでは?」

「ボクは……がお菓子食べたいって言うから、作っただけです!」


 ちょっと聞き取れなかった。


「まあいいわ〜。合流地点で会いましょう〜」


 そう言い、端末を操作し通話を切る。


「さて、私はこの辺でお暇しますわ〜。またお会いしましょうね〜夢羽様と下っ端A」


 綺麗なお辞儀をした後、突然その場から消えてしまった、


「さて、私達も帰ろうか」

「そうね」

「ああ」

「りょーかいです!」


 私はクルマを呼び出した。


「じゃ、私達はこの辺で帰りますね。現実世界でも今回みたいな事しないこと」

「は! そんな事わかってるさ」

「はは。じゃあね」


 そう言い、手を振って見送る夢の主に手を振り、夢の星を出た。

 そして、星間郵便局に帰還した。

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