39 終わらない夏祭り③

 祭り会場に入った私達はすぐに、今までのループで歩いていた出店の道とは反対側の方に向かった。

 狂人が溢れかえった後に、夢の主と一度会っている方の道だ。


「夢の主はどこだ? もぐもぐ」


 タツロウはまた、別の出店から焼き鳥を貰って食べていた。


「見た目は夢の住民と変わらないからねー。祭りを楽しんでいるわけだし……」


 そう言っている夢羽もわたあめを食べ、祭りを楽しんでいる。


「何か区別がつきそうなものがあればいいんだけど……」


 周囲を見渡すが、やはり区別がつかない。


「あ! 夢の主に渡す手紙はどう?」


 カバンから手紙を出してみた。

 そして、それを周囲に見えるように上げてみた。


「主様へのお手紙だ」

「主様はどこだ?」

「主様の邪魔をしてはいけない」

「主様にはまだ見せるな」


 主の夢に住んでいる人達だからか、主への手紙に異常に反応している様子。

 奥の方から聞こえる声は、なぜか夢の主を擁護ようごしようとする声ばかり聞こえた。


「夢の住民って、基本的に優しいのよね。だけど、主の意に沿わない事だと、守ろうとするのよ」

「ってことは、今手紙を渡す行為は意に沿わないってこと?」

「そうかもね。でも場所はわかったわね」

「うん、あの辺りにいるかも」


 祭りを楽しんでいた人達が、突然不可解な行動をしだした場所へと急行する。


「すまんな、ここを通してくれ」


 タツロウが先陣を切って、人々の間を抜けてくれている。


「あ! あの人だ!」


 あの人が狂人で見えなくなる瞬間が、なぜか印象に残っている。


「作戦開始!」


 私がそう言うと、タツロウは来た道を引き返していった。

 そして夢羽は姿を消し、祭り会場の真ん中辺りを浮いている。

 私は、夢の主に近づいた。


「こんにちは。祭り楽しいですね」

「は、はい」


 よく見ると幼さをまだ残した主で、年齢的に高校生くらいかなという印象だ。

 夢の主の周りには、友達と思われる人達に模した夢の住民が、私という外敵から主を守るために囲んでいた。


「私は風羽。一緒に祭り楽しんでもいい?」


 そう聞くと、周りの人達を気にしてキョロキョロする。

 夢の住民はコソコソと話した後、その中の代表が夢の主に頷いた。


「はい。ご一緒しましょう」

「ありがとう」


 私は微笑み返し、手を差し伸べた。

 夢の主は恥ずかしがりながら、その手を握ってくれた。

 と、その時


「わ! 綺麗ですね!」


 祭りの会場から少し離れた所で、1発の花火が打ち上がった。

 その音に反応したのか、酔っぱらいに模した狂人達が、次々と花火の上がった所へと移動をし始めた。


「なんだろ? 酔っ払いがいっぱいいますね」

「うん……気にしないで、あっちで遊びましょ」


 私は夢の主が狂人に目が行かないように、近くの出店の射的ゲームを指した。


「あ、いいですね。僕、得意ですよ」


 主は店員に話しかけた後、銃を持って構え、景品を狙い始めた。


「おっと……」


 その時、主に近づこうとした酔っぱらいみたいな狂人を、私は主に気づかれずに頭を裂き、動かなくなった身体を出店のテントの陰に隠した。


「風羽さん! これ取りました!」


 主は無邪気に飛び跳ねている。

 取れたのは、どうやら飴玉の入った缶のようだ。


「はい。これあげます」


 缶から1粒飴玉を差し出してきた。


「風羽! 後ろから狂人の集団!」

「(りょーかい)」

「ありがとね。今度はあっち行ってみようか」

「はい!」


 私は主を、その集団に接触させないように誘導した。

 主は楽しめている様子。

 2発目の花火が打ち上がった。

 その音で、更に狂人達が移動を始める。


「お嬢! 結構な数集まってきたぜ! 一発デカい爆発起こすぞ!」

「りょ……」

「どうしましたか?」


 夢の主が不思議そうな顔をしている。


「ううん、なんでもないよ。あのりんご飴食べようか」


 主は、出店の店員からりんご飴を貰う。


「あ! あの店珍しいね! 寄ってみようか」

「はい!」


 音楽ショップみたいな出店があったので、そこに立ち寄った。


「あ! これ聞いてみたかったんです!」


 主はそう言い、ヘッドホンを装着する。


「今」

「りょーかい!」


 タツロウに合図を送ると、大きめの爆発音が響き渡った。


「……? 今のは何でしょう?」


 ヘッドホンを外して周囲を見る主。


「また花火でも上がったんだよ。気にせず聞いてていいよ」

「ありがとうございます」


 再びヘッドホンを装着する夢の主。


「あ、またはぐれ狂人……」


 主の視界に入らない位置まで誘導し、そしてナイフで切り裂く。

 そしてまた出店の陰に移動させた。


「ふぅ……」

「風羽さん」

「うわ!? ……びっくりした」


 いつの間にか後ろに夢の主が立っていた。

 狂人の身体はギリギリ見えていないようだ。


「どうしたんですか? 何かあったんですか?」

「いや……猫ちゃんがいたから触ろうとしたんだけど、逃げられちゃった」

「そうなんですか! 僕も見たかったです」

「見せたかったんだけど、ごめんね」

「いえ、大丈夫です。それより、僕のために色々とやっていただいて、ありがとうございます」


 突然、主が頭を下げた。


「いや、何もやってないよ」

「いえ。風羽さんには何度も助けられました。結局あの酔っぱらい達に囲まれてしまいましたけど……」


 主は、あははと笑う。


「え? 気づいてたの?」

「あの酔っぱらいにぶつかって転んだ後から、同じ夢を何度も見ているなって感じてました」


 夢だって自覚している? 明晰夢ってやつなのかな。


「そうか、バレてたのね」

「はい。それで、風羽さん達は夢を守る組織の人ですか?」

「ははは、まあ似たような事しているね。でも、私は星間郵便局の配達員だよ。はいこれ、貴方へのお手紙です」

「郵便屋さん!」


 夢の主は手紙を受け取った。

 それを開いて手紙を読み始めた。

 いつも通り、夢の主に関する映像が私の頭の中を駆け巡る。


「ありがとうございます、風羽さん」


 そう言うと、手紙から切手が剥がれ、私の手元に飛んできた。


「こちらこそ、楽しい時間をありがとね」


 私は手を差し出す。

 夢の主はそれを握り返し、握手をしてくれた。


「お嬢! 要救助者を2名見つけたぜ! こいつらはどっちも怪我なしだ!」

「あたしが制服を来たおっちゃん、2人見つけたんだからね!」

「2人共ありがと。手紙配達終わったから帰還するよ」

「「りょーかい!」」


 返事を聞き、タツロウとの通信を切った。


「風羽さん! また会えますか?」

「そうね。またお手紙があったら配達に行くよ」

「楽しみにしてます!」


 夢の主は手を振り、祭り会場の奥へと消えていった。


「さて、次の夢の星に行くか!」


 私も祭り会場から出て、2人の待つ場所へと向かった。


---


 2人と合流し、夏祭りの星を何事もなく出ることができた私達は、タツロウが借りたクルマに乗り、次の星へと向かっていた。


「時が戻る原因と『狂人』が何だったのか。結局わからなかったな」


 自動運転だが、ハンドルを握っているタツロウ。


「うん……でも、色んな星で遭遇そうぐうしているわけだし、もしかしたら次の星でも出てくるかも?」

「それは嫌ね……」


 夢羽は私のカバンからおにぎりを取り出し、それを頬張っている。


「それで、お嬢が2人いるんだが、どっちが本物だ? と聞きたい所だが、明らかにおかしい点がいくつもあったわ」

「えーっと、何の事でしょー?」


 夢羽は明後日の方向を見ている。


「いやいや。2号お嬢の1番の特徴は、その頭に乗っかった団子! あと制服を着ていない!」

「まあ、あたし局員じゃないし。てかあたしが夢羽! 姉だから2号じゃない!」


 微妙に怒った顔をしている夢羽。


「まあまあ、タツロウさんもこの辺にしておいて。私は風羽だよ。隊長でもいいし、好きに呼んだらいいよ」


 夢羽をなだめつつ、タツロウに提案を投げた。


「お嬢はお嬢だもんな……そうだ! 2号は総長ってことで!」

「いやそれいいのか?」

「今まで見えてなかったんだ。これからもそうだろ?」


 タツロウは夢羽を見る。


「それはわからないわ。もっとチカラが集まったら解放されるもの」

「ん? 何がだ?」


 夢羽はタツロウに、自分についてを説明した。


「そんな事があるのか……」

「これ、トップシークレットだからね。あたしと風羽以外に知らないから、誰かにバラしたらどうなるか……わかった?」


 夢羽は手のひらから電気のような物をバチバチ言わせて、威嚇いかくした。


「いや、何だよその手! 何か作っちゃうわ、電気も出すわ。わけわからん!」

「うん。私もわからん」


 タツロウに同意する。


「邪気の監視が強いから厳しいわね。いずれ説明するから今は見逃して!」


 夢羽はこの通り! と両手を合わせている。


「わかったよ。あと、誰にも秘密は喋らんよ。そもそも俺が言う事を信じる人はあまりいないからな。ははははは!」


 なんかタツロウさんが可哀想に思えてきた……。


「あまりいないってことは、いるのね」

「ああ。ってお嬢! せめて私は信じているって言ってくれよぉ……」

「はいはい、信じてますよ。それよりあれ、次の星だよね」


 異様に暗い星が目の前にあった。

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