28 雲の星

 神社から階段を下り、空が見える広場まで来た。

 行きがすごく長く感じた分、帰りはあっという間という感じだった。

 階段の途中にあった鳥居が全て無くなっていたのは、たぶん大蛇と同じく消えたか、あの切手になったかのどちらかだろう。


「さて……夢の星から出た後報告の連絡しないといけないんだけど、その前に……」

「うん? どうしたの?」

「何平然と身体出しているわけ?」


 私の頭の上に、私がデフォルメになったサイズの身体がプカプカと浮いていた。

 ロングヘアが目立たないようになのか、頭頂部にお団子を作っている。服はなぜか動きやすそうな服装をしている。


「出せるようになったから?」

「いや私に聞かないでよ……。それより、その身体は他の人に見えるの?」

「どうだろうね? そればかりは試してみるしかないわ」

「局員の中で、信頼できそうな人を見つけるってことか……」

「大丈夫よ。風羽ならできるわ」

「うん。頑張るよ。それより、不特定多数の人には見えないようにしないと、また噂が流れるよ」

「そうだね。出たり消えたりできるし、人がいる時は消しておくよ」

「うん、その方がいいかもね」


 カバンからレンタカーを呼び出す装置を取り出す。


「それで、さっきの切手は何だったの?」

「あれね……どう言えばいいのやら……」

「また邪気が邪魔しているの?」

「いずれバレるとは思うけど、行き先……もバレるか……うーん」


 夢羽はプカプカ浮きながら、何かぶつぶつ呟いている。


「なに? 誰にバレるって?」

「うわぁ!? 身体が出た分聞こえるのね……。そう……邪気も関係するけど、まだバレたくない人がいるのよね……あー、また集まってきたよ……」


 どうやら何か話をしていると邪気が集まってくるようだ。


「しょうがないな……じゃあ、これは保留ということで、誰にも見せないってことでいい?」

「うん、その方がいいわ」

「りょーかい」


 私は呼び出したレンタカーに乗り込み、夢の星の外に出た。


---


 夢の星を出ると、タイミングを見計らったのかと思うほど良いタイミングに1つの星が2つになり、そしてそれらが同時に薄暗くなった。


「現世の方で起きたみたいだね」

「そうみたいね。2つの星が1つになる現象、初めて見たわ……」

「あーたしかに……」


 2つの夢の星を眺めていると、端末が突然震え始めた。


「あー……電話かける前にかかってきたよ……」

「わかったわ。あたしは聞くだけにしておくね」


 私は通話に出る。


「おせーぞ! 定期報告はしろってミーティングでも言っただろ!」


 ゲンの怒鳴り声がレンタカーの中に響く。


「圏外だったから……」

「それなら一旦星の外に出るとかさ」

「それもできなかったんだよね。また捕まってたから」

「またか!? うわ! 何する!」

「局長落ち着いて! お嬢から何日も連絡が来ないものだから、心配しすぎて爆発してるぜ! 頭がボンだ! ははははは!」

「あ、その声はタツロウさんですか」

「タツロウでいい! あとため口でいい!」


 相変わらずすごくテンション高い。

 あとスルーしてしまったけど、何日かあの星にいた事になっているようだ。


「えっと……じゃあ、タツロウさんで」

「お嬢! 変わってないぜ! どわ!? 俺までしなくてもいい!」

「ごめんなさい副隊長。話が進みません」

「あ、チョウさん」


 落ち着いた様子で通話に割り込んできたのは、夢の星調査員のチョウさんだった。


「ご無事で何よりです。作戦通りにはいきませんでしたが、大丈夫でしたか?」

「あー、たしかに作戦通りではなかったね……」


 当初の作戦は、定時に連絡をして指示を仰ぎ、危険があったら速やかに退避、救助対象者がいたらすぐにレンタカーに乗せて星の外へ、というものだった。


「1人ずつしか入れないという特殊な夢の星でしたからその作戦でしたが……」

「どうだったんだ!?」


 いきなりゲンの大声がスピーカーから出てきた。

 大きな雑音が入ってきたので、おそらく端末を奪われたのだろう。


「んーと……作戦は失敗だね……」

「そうか……」


 さっきまでの騒がしさが一気に静かになった。


「うん……全員消滅した後だった。タグは回収したよ」

「ああ、ありがとう……。今後も行方不明者が出る可能性があるってことだな。機動隊に連絡して、夢の星の監視を」

「あ、待って!」


 ゲンが何かを指示しようとしたのを制した。


「あ? どうした」

「行方不明者の分も含めて全部の手紙配達は終えたから、今後行方不明者は出ないよ」

投函とうかんしてきたのか!?」

「いえ。直接渡してきたよ」

「直接か!! 会ったのか!」


 ゲンはなぜか驚いている。


「う、うん。あとこれ、夢の星にあったよ」


 私は撮った写真をメッセージで送った。


「壺か! ここにもあったのか……」

「これは何ですか?」

「高そうだな! 持ち帰って質屋に売ってみようぜ!」


 写真を見るために端末に顔を近づけたのだろう、2人の声も近くなった。


「やかましい! あとこれは売らんからな! 危険な代物だ」

「そうなんですね。あ、これが報告書にあった、あの壺ですか?」

「報告だと!? そんなの聞いてないぞ!」

「副隊長いつも書類は見ないじゃないですか……」

「口頭で報告しろ!」

「理不尽な……」

「だー! やかましい! おいタツロウ! 報告書はしっかり読め!」

「それ局長には言われたくない!」


 似た物同士がトップになってるのか、この組織は……。

 私は頭を抱える。


「漫才は帰った時に聞くので、次の星に行ってくるね」

わたくしもこの中に含まれているんですか……」


 チョウは、あぁとなげく。


「はい、ツッコミ役のチョウさん……次の星はミーティング通りの場所でいいんだよね?」

「……はい。あ、そうですね。副隊長! 隊長が次の星に行かれるそうですよ」


 端末の横でワイワイ、ガーガーしているタツロウとゲンを止めるチョウ。


「やはりツッコミ役が適任か……」

「私はツッコミ役ではなく、局員が行方不明になる前に手を打つ班の班長です」


 チョウが説明した通り、救助隊の中にも班があり、救助班と対策班がある。

 その対策班では、局員が配達する夢の星を事前に調査し、危険度はどのくらいかを見極めているようだ。

 だが星の数と言っていい程の量に加え、心境によって夢の星の環境も変わるので、ほぼ意味を成していない。

 なので、現状対策班は救助対象者がいる星の調査をし、救助隊の安全対策にしか使われていない。


「んー……もう少し上手く活用できそうなんだけどなー」

「どうしました?」

「いや、何でもないよ。まだ構想の段階だから、まとまったら話すね」

「わかりました。それで……副隊長、次の星行かれるそうですよ」


---


 と、いうやり取りを聞いているうちに、次の夢の星に着いてしまった。


「合流する予定だったんだけどな……」

「先に着いちゃったものはしょうがないわ。先に降りちゃいましょ」

「そうだねー」


 レンタカーを降下モードに変更し、夢の星へと降りて行った。


 急降下をしているはずだが、至る所に雲。

 雲ばかりのしか視界に入らない。


「雲ばっかだ……陸地は? ……もしかして雲が陸地ってパターン?」

「前に泡で出来た地面を歩いたって言ってたわね」


 夢羽は窓にへばり付いて外を見ている。


「そのパターンかもしれん。近くの大きめの雲に近づいてみるね」


 レンタカーの自動モードで陸地を見つけきれなかったので、手動モードに変更して雲に近づいてみた。

 そして、そのまま雲の上に着地できるか試してみた。


「お? おお! 着地できたよ!」

「雲の陸地なのね」


 レンタカーのドアを開け、降りてみた。

 もふもふの地面を踏んでいる感覚。


「地面というよりベッドだなこれ……永遠に寝られそう」

「あ! それじゃないの? 行方不明の局員がいる理由!」

「もふもふ地面に囚われて起き上がれない……駄目人間じゃん」

「駄目人間言わないの。現に風羽も『永遠に寝られそう』って言ってたわよね」

「うぐ……自分の発言には責任を持ちます。駄目人間言いません」


 もふもふ地面から起き上がり、周囲を見渡す。


「あ! あれ見て!」


 私は少し遠くを指す。


「なになに? あ! 羊! もふもふしてみたいー。もふもふしてもいい? いい?」

「もうすでに、もふもふしてるよね……」


 夢羽はそう言いながら、近くを通った雲のような羊を捕まえて、もふもふし始めた。

 夢羽がもふもふしていると、どんどん夢羽の周囲に雲羊が集まってきた。

 動物に好かれるタイプなのだろうか?


「わあ! もふもふ天国!」

「みんな浮いてるね。無重力なのかな?」

「そうかもしれないわね。さて、もふもふ天国はこのくらいにして、夢の主探すよ」

「いいの? もふもふ」

「だって、こんな天国みたいな夢を見る主を死なせるわけにはいかないでしょ」


 夢羽が辺りを見渡し、クンクンとニオイを嗅ぎ始めた。

 なんか犬みたいだ。


「……今、犬みたいって思ったでしょ……。あ! あっちから魂のニオイするよ」

「何でわかったし……ってはや! いや待て魂のニオイって何!?」

「わりと近いわね」


 私の質問をスルーし、夢羽は私の頭の上に乗っかる。

 そして、「あっち! あっち!」と言いながら指を差した。

 私は、そのニオイの発生源へと泳ぎ始めた。

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