13 砂と廃墟しかない星

「よし来た! この切手、砂浜の風景かな?」

「砂浜? 海はあるのか? いや着けばわかるさ。とりあえず置いてくれ」


 ゲンに催促さいそくされたので、ダッシュボードに手紙を置いた。


「よし、行くぞ」

「ゆっくりでいいよー」

「着いたぞ」

「だから早いよ!」


 私達はその夢の星を見下ろす。

 そこは一面砂の色という感じの星だった。


「これまたすごい星だな……」

「どうすごいの?」

「乾いているな……うるおいが足りん」

「それは見たらわかるけど……夢の星でそれが現れていたらどうなるの?」

「ストレスだな。最近、こういう星が増えてるって報告が上がってるな」

「そうなんだ……現代社会の弊害へいがいってやつかもね……」

「現世の事情は知らんが、夢の世界にもその影響が出ているってことは相当なもんだな」


 ゲンはそう言いながら、夢の星への降下を始めた。

 降りていくと、星の全貌ぜんぼうが明らかになってきた。

 至る所に廃墟の町や廃墟都市があり、それらを砂漠が侵食してきたといった感じに見えた。


「元々は普通の町とか都市だったんだろうな」

「そんな感じがするね。夢の主はどの辺りにいると思う?」

「他には無い何かがある所にだいたいいるんだが……ここからじゃわからんな」


 そう言い、ゲンは近くの町に着陸した。

 私は車から降り、ゲンは車から人型へと元に戻った。


「さて、夢の中の住民がいれば主を探す手がかりになるんだが……それっぽいのいるか?」

「住民? 人じゃないとだめとかある?」

「いや、そんなことはない。さっきの星を例にすると、ウサギが夢の住民ってことになるな」

「あー……なるほど。じゃあ、あれがそうじゃない?」


 私は、こちらに迫ってきている背ビレを指す。


「あ? 何だあれ?」

「さあ? サメじゃない?」

「だよな。さすがに我はロボットだから錯覚なんてあり得んしな」


 とりあえず、そのままこの場にいると食べられる可能性が出ていたので、廃墟の上に登ることにした。

 サメらしき背ビレは、私達の下で待機している。


「うん、やっぱり背びれだ。それに砂から出てるよ」


 そう言いながら廃墟から降り、背びれに近づきそれをツンツンと突いた。

 すると、


「ムウ、危ない!」


 背びれが動いていなくなったかと思いきや、私に向かって飛び出してきた。

 だが、なぜか口を開けていない。

 私は距離を取り、再び廃墟に登る。


「うん、サメだ、サメ!」

「何でそんなにテンション高いんだよ……」

「だって、サメだよ! 可愛いじゃん!」

「はぁ……頭突きされそうになって言うセリフじゃないよな、それ……」


 私は再び廃墟から降り。サメを撫でている。


「ほら、サメが集まってきたよ! 癒やし空間……」


 5~6匹はいる気がする。

 砂の中にいるサメ、便宜上砂ザメと呼んでおこう。


「いやいや、ほら! じゃねーよ……。癒やし空間じゃねーし……。あと、主が食べられる前にさっさと探そうぜ」

「それもそうだね」


 ゲンの下の方で、口を開けて落ちてくるのを待ち構えている砂ザメ。

 砂ザメは私の後を追ってきている。

 ゲンはドローンになって、私の真上をフヨフヨと飛び、周囲を確認した。


「どうするんだ、こいつら……」

「いいんじゃない? 私に危害加えないみたいだし」

「いや、それはムウが動物に好かれているからだろ……。てか、動物好きだったんだな」

「んー何でだろ? 生前の記憶がよみがえってきているのかも?」


 ゲンは砂ザメを避けながら、廃墟の外から中を確認している。


「お! 何かあったぜ!」

「どれどれ? ……サメさん達、ゲンは私の大事な友人なんだから、食べちゃダメだからね!」


 私は砂ザメの所を向き、人差し指を上に立てる。

 それを聞いてゲンは恐る恐る着地し、ゲンがさっき見つけた何かを取りに行った。

 砂ザメはゲンをじっと見ているが、何もしてこない。

 賢い子達だ。


「……壺?」

「ああ、壺だな。割ったら中から鍵が出てきたりしてな」

「そんなRPGじゃないんだから……」


 私はゲンから壺を受け取る。

 中を確認すると何も見えなかった。


「よし、割るぞ!」


 ゲンが壺を持ち上げて、落とそうとした。

 しかし、


「ヒヒ! ちょっと待つのよ。その壺はすごく高価な物なのよ」


 突然建物の陰から、怪しい大人が1人出てきた。


「誰だお前? 局員の制服を着てるってことは、死者であることは間違いないが、この星への配達が被ってるのか?」

「ヒヒ! ええ。わたくしもここの主様へのお手紙を持っていますのよ」


 怪しい大人が、カバンから1通の手紙をカバンから取り出す。

 たしかに夢の主の同じ名前が記されていた。

 しかし、その封筒からは、劣化した魂の気配を感じた。


「ねえ? その封筒、古くない? ちゃんと配達している?」

「な、何を言ってますのよ。ちゃんと配達してるのよ」


 怪しい局員は、手紙をカバンのポケットに戻した。


「んー……ムウ、こいつの手紙、古いって感じたんだよな?」

「うん、それがどうしたの?」

「ああ。それを信じてみるぜ。こいつ、捕まえるぞ!」


 ゲンがいつもとは違う人型ロボットに変身し、右手の自動小銃で怪しい局員を撃つ。


「ヒヒ! 危ないのよ!」


 怪しい局員は常人とは思えない動きで、弾を避ける。


「捕まえればいいのよね? サメさん達、あの人を捕まえて!」


 私が周囲にいるサメにお願いをすると、サメ達が一斉に怪しい局員に襲いかかった。

 そして、


「ひぃ! なんなのよこいつらは!? サメなのよ!?」


 サメ達はあっという間に怪しい局員を囲んでしまった。

 そしてそこは廃墟の中なので、上に逃げることはできない。

 てか私、動物と意思疎通できてるんだけど……。


「ひぃ! 食べないでのよ!」


 怪しい局員は1匹のサメに咥えられ、そして私の所まで連れてきてくれた。


「ありがと……さて、大人しく縛られてちょうだいね」

「……ぐぬぬ!」


 私は怪しい局員を縛り上げた。


「こいつどうやって運ぶの?」

「こうやるのさ」


 ゲンが私のカバンのポケットから、1本の筒を取り出した。


「あ、それ気になっていたんだよね。何に使うの?」

「こう使うのさ」


 ゲンは筒を地面に置き、そしてくっついていた紐を引っ張った。

 すると、ボンという音の後、煙がモクモクと立ち上り始めた。


「あー狼煙のろしか……って、それって見える範囲じゃないと意味ないよね?」

「大丈夫だ。これで星間郵便局のオペレーター部に通達される。そしたら軍部が動くぞ」

「オペレーター部? 軍部?」

「ああ。あの大きな組織を動かすための内部組織だ。局員サポートと治安を守る事が仕事だ」

「……なるほど」


 私はゲンの話を聞いた後、足元の怪しい局員を見た。


「それで、貴方はここで何をしていたの?」

「ヒヒ! それは教えられませんのよ!」

「あの壺は何?」

「ヒヒ! それも教えられませんのよ」

「はあ……」


 私は肩に掛けていた自動小銃を構え、壺を撃ち抜いた。

 するとそこから、あの輪廻の世界で見た、黒い水たまりのような物が出てきた。


「うわ! これって、邪気じゃねーか!」

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