【Ⅰ】夢と現の星間郵便 第1章:新たな始まり
06 狂人が蔓延る星
起きるとそこは、寝る前にいたマンションの一室だった。
「(貴方には特別なチカラがあるの。だけど、誰にも悟られないこと。誰にもよ。あと、風羽の名前の事と、夢であたしと会った事も誰にも喋らない事。約束ね)」
「約束だから守るけど、誰にも喋らない事……か」
ゲンにもってことだよね。どうしてだろ?
そんな事を思いながら準備をし、食事を済ませた後に、カバンを受け取るために郵便局へと向かった。
そして私はカバンを受け取り、レンタカーを借り、ターミナルへ行き宇宙へと飛び立った。
今私は、車から降りて宇宙空間にいる。
「やっぱりここ、宇宙なんだ……。最初は強制的な感じだったし、ずっとゲンに乗ってたから実感なかったんだよね……。命綱なしで宇宙遊泳って、死んでなかったらできないね」
私はくすくすと笑う。
「さてと……」
仕舞っておいたレンタカーをまた大きくし、それに乗ろうとした。
「楽しそうだな」
「うわぁぁああ!?」
借りたはずの車が、ゲンに変わっていた。
「そんなに驚くなよ……」
ゲンは、車から元のロボットに姿を変えた
「いやまじでびっくりするでしょ。車に話しかけられるんだよ?」
心臓が止まるかと思った……。
胸に手を置くと、ドキドキしているのがわかる。
「悪かったって」
そう言い頭を下げ、そして再び車の姿に戻った。
「はぁ……てか、ゲン忙しいんじゃないの? 局長職はどうなったの? クビ?」
私はゲンに乗りながら質問する。そして、手紙をダッシュボードに置いた。
「んなわけないだろ。お前さんが来たから、輪廻の間での確認作業が無くなったからな。その分暇になった」
私が乗ったのを確認し、ゲンは動き始めた。
「そうなのね……それで、私を待ってたってのは?」
「……秘密だ。そういえば、輪廻の世界から郵便局に入ってきたが、あそこはどうだったんだ?」
「えーっと……」
輪廻の世界については夢羽に聞いたんだけど、まだわからないことにしておかないだよね。
「輪廻って? ……ああ、やっぱり自分で調べるよ。あの草原が輪廻の世界って言うのねー」
「ああ、そうだ……そうか、記憶喪失だったな。図書館に行くと色んなことが調べられるから、活用したらいいぜ」
ゆっくりと動いていたゲンが、どんどんスピードを上げていく。
しばらく飛び、目的の星の姿が見える距離まで近づいてきた。
遠目で見ると地球に似た星という感じで、特徴を掴めない。
もっと近づく必要がありそうだ。
「ゲン、あれ」
運転中のゲンに声をかけた。
「ああ、あれが目的の星だ……」
ゲンはちょっとテンションが低いようで、声のトーンが低い。
「どしたの? 見た感じ普通の星だけど……」
「ああ……だがあの星、何かあるぜ」
「え? 何それ怖いんだけど……」
夢の星に更に近づき、詳細な姿を捉えることができた。
「本当に普通の星だよ。地球に似てる」
「そうだな……」
「降りる?」
「ああ。だが、すぐ降りられるように準備しておけ。何が起きるかわからんからな」
そう言い、星への降下を始めた。
---
いたって普通の地球という感じがするが、色んな建物から煙が上がっている。
たぶん、火災が起きているのかもしれない。
え? 何が起きてるの? 夢の主は大丈夫なの?
ハラハラしながら周囲を見渡していると、横の方からヘリコプターが近づいてきた。
私達に気づいていないのか、そのまま突っ込んできている感じがする。
「あっぶね! なんだ? あのヘリ」
ゲンはそのヘリコプターを避ける。
「追いかけて!」
「!! わかったぜ!」
ゲンは、避けたヘリを追いかけ、そして並走した。
私はドアを開け、ヘリに飛び移る。すると、
「うぅ~……がぅ! ……がぅ!」
突然、軍の人? に噛みつかれそうになった。
私はそれを避けるために外に出て、ヘリのドアに掴まった。
狂った軍人は私の方に向いて威嚇し、そして持っていた自動小銃を乱射し出した。
「わわわ!!」
私は
落ちてきた私を、ゲンが間一髪、自身の上に着地させた。
狂った軍人が乱射した自動小銃の銃弾はドアを貫通し、反動に負けたのかヘリの天井を撃った後に反対側のドアと操縦席を撃ちながら倒れた。
プロペラは無事のようだ。
「こりゃまずいな。ヘリの中から何か武器になる物がないか探れるか?」
「やってみる」
ゲンは上昇し、ヘリに近づく。
私はヘリに飛び移り、中の様子を見た。
狂った軍人は自動小銃を捨てて立ち上がり、操縦席でガタガタと動いている人型の者の方を向いているようだ。
あれだけの銃弾を浴びた後にも動いているので、おそらくあれも人間ではないのだろう。
私は捨てられた自動小銃を拾い、それを使って狂った軍人を叩き飛ばした。
軍人は、反対側の開いている所から下へと落ちていった。
操縦士はその音を聞きつけ、席から立ち上がろうとするも、シートベルトで固定されているからか、その場でもがいている。
「このヘリどんどん落ちていってるぜ。急いで中を漁ろうぜ」
たしかに、ゲンの言う通りヘリの角度は下に向いている気がする。
操縦士も狂っているみたいだし、復帰は無理そうだね。
私はヘリの中を見渡した。
今手元にある自動小銃の他に、手榴弾らしき物が数個とそれをぶら下げられそうなベルトが1つ、拳銃一丁とマガジンが2つ入りそうなホルスターが置かれていた。
あと、弾の入った箱もたくさんあった。
迷彩柄の大きいリュックサックまである。
もしかしたら、物資輸送ヘリだったのかもしれない。
「お、ここに大きいカバンがあるじゃん。ムウのカバンこれに入れて、空いた所に詰め込めるだけ詰め込んでおけ」
いつの間にかロボットの姿に戻っていたゲンが、リュックを持っている。
私は頷き、リュックを受け取り局員用カバンをその中に入れた。
そして、拳銃と自動小銃の弾箱をリュックに入れ、マガジンをリュックの両サイドポケットに入れた。
次にベルトを腰に巻き、左腰に手榴弾を3個ぶら下げた。
最後に、ホルスターをベルトの右腰側に止め、それに拳銃を入れた。
あとでホルスターにマガジンを入れよう。
「もったいないけど、あとは置いておくね」
「グレネードはもっと入らないか?」
「いや、カバンに入れてピンが抜けて爆発したら終わりだよ」
「それは怖いな」
リュックを担ぎ、装備を整え、ヘリの外を見る。
そしてゲンが車の姿に戻り、それに飛び乗る。
ゲンは減速し、降下を始めた。
私は飛んで行ったヘリの様子を見ていたが、案の定ビルにぶつかり、そして爆発してしまった。
「危なかったな……。乗っている人は夢の主っぽくなかったから大丈夫だろう」
「狂ってたね……。なんで、ああなってるんだろう」
「さあな……あそこに降りるぞー」
パーキングエリアがあったので、ゲンはそこに着陸した。
着陸した時に音が響いたのか、人がわんさかと集まってきた。
「こんにちは。夢の主の居場所を知りませんか?」
私は外に出て、近づいてきている人達に質問を投げた。
しかし、
「おいムウ、様子がおかしいぞ」
ロボットの姿になったゲンは、周囲を警戒している。
「うん、もしかして……」
「ああ。ヘリの中と一緒だ」
そう言った瞬間、
「「うがぁがぁぁぁあー!!!!」」
大勢の人達もとい、狂った人達が私に向かって走ってきた。
「ムウ! 乗れ!」
いつの間にか自転車に変身していたゲンに乗る。
「あの隙間!」
私は狂った人、略称
「りょーかい! 突っ込むぜ!」
ゲンは迫る狂人を掻い潜り、隙間に入り込んだ。
そして、狂人の壁を突破した私達は、そのままビルの間の路地に入った。
---
急いで路地へ入ったが、私達を追って狂人の集団が路地へと入ってきた。
「追ってきたな……」
「えー……どうするのよ?」
「あれに対抗できる方法は1つしかないだろ」
私は後ろからついてくる狂人を見る。
そして、
「それは一体何?」
ゲンを見て聞いた。
「逃げる!」
「ええ!?」
ゲンは更にスピードを上げ、交差点を右へ曲がり、そしてすぐに建物の中へ入った。
「ここなら入ってこないだろ」
狂人達は交差点を曲がらず、真っ直ぐに走っていった。
「走っていったね……」
私はガラス戸越しに外の様子を見る。
「止まれ! 動くと撃つぞ」
振り返ると、タバコを咥えたヤクザな感じのスキンヘッドのおじさんが、カウンター越しにこっちに散弾銃を向けている。
「待って! 私達は星間郵便局員です」
そう言うと、ハゲのおっさんは舌打ちをしながら散弾銃を下ろした。
「ありがとうございます。ここは……お店ですか?」
建物内を見渡すと、銃や弾薬など武器類が置かれているように見えた。
どうやら武器屋のようだ。
なんだろ……この流れどこかで……。
「そこのドアからさっさと失せろ」
ハゲのおっさんは部屋の奥にあったドアを指した。
「……わかりました。ありがとうございました」
私は店内を見る事なく一直線に奥のドアへ向かい、外へと出ようとした。
「……あの窓、シャッター下ろせるのでしたら、すぐに下ろした方がいいですよ」
ドアのノブを握りながら振り返り、私はそう言い、そして外へと出た。
出る直前に、店内から舌打ちの音が聞こえた。
その直後。
「うわああああ! 来るんじゃねええ!」
ガシャーンというガラスの割れた大きな音と共に、ハゲのおっさんの声と散弾銃の発砲音が聞こえたが、次第にそれも聞こえなくなった。
「狂人共がドアから出てくる前に遠くに行こうぜ。あっちに大通りに出られる路地があるな」
自転車がひとりでに動いている光景は、すごく夢の中だという感じがする。
「……うん」
私はゲンの近くまで小走りをする。
「あ、そういえば今更だがムウ、ここの夢の主に配達する手紙の切手は見たか?」
「切手? 見てないよ?」
「あれには、夢の星がどういう場所なのかってヒントが描かれている」
「そうなんだ」
私は、カバンのポケットに入れてある手紙を出した。
「これって……」
「なんだった?」
「……ゲームのコントローラーだよ」
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