02 田舎の香りは干し草と日向の香り

 外に出ると、さっきと変わらず上も下もたくさんの人がせわしなく行き来していた。


「どこに行くの?」

「まずはカバンを受け取らないとな。あそこだ」


 ゲンはたくさんのカバンが置かれた棚を指した。


「うわ、すご! あれだけ並んでいると壮観そうかんだね。でもこんなに人数いるから足りないんじゃない?」

「いや大丈夫だ。また出てくる。ほら」


 局員がカバンを取った所に新しいカバンが現れた。


「死後の世界だから何でもありってやつ?」

「まあ、あのカバンも霊的な物だからな。ほら、さっさと受け取りな」

「うん……」


 私は近くのカバンを取った。

 肩掛けカバンだ。


「この中に何が入ってるの? あ、もしかして手紙だったり?」

「正解だ。今から配達する手紙が入ってる。開けてみろ」


 カバンを開けると、何通かの手紙が入っていた。


「よし次は本来だとあそこに行く。だが、我がいるからいい」


 ゲンが指した所にはレンタカー屋があったが、なぜかいらないようだ。

 ゲンは目的地を言わずに歩き始める。


「私まだ免許取ってないけど……」

「自動運転だ。手紙を置く所があるんだが、そこに置いたら勝手に向かってくれるぜ」

「ハイテクだな……」


 私も追いかけながら話しかけた。


「次はどこに行くの?」

「配達だな。夢の星に行くために、まずは地球から出ないといけない。それがあの施設だ」

「……あれ? 今更だけど、私、星間郵便局の建物の中にいるはずなのに、外にいるの?」

「死後の世界の地球が星間郵便局って思ってくれてもいい。それほど大きいからな」

「そんなにでかいのか……じゃあ、私がこの世界に来た時にいた場所は?」

「それもいずれわかる時が来る。さあ、着いたぜ」


 話しているうちに、いつの間にか大きな施設の前に着いていた。


「ここは?」

「カタパルトだ」


 たくさんの人がずらりと並んでいて、それが入口まで続いていた。

 私もその最後尾に立つ。



---



 結構待つのかと思いきや、すんなりと中に入る事が出来た。

 中もとても広く、そして空へと伸びるレールのような物がいくつもそびえ立っていた。

 レール近くにも列ができている。

 その先頭では、局員がレンタカーと思われる物をどこからか出してそれに乗った。

 そして、その車が消えたと言っていいほどの速さで飛んで行った。


「私、レンタカー借りてないんだけどいいの?」

「ああ、我がいるからな」

「さっきもそう言ってたけど、ゲンって人型ロボットだよね?」

「まあまあ、あそこに行けばわかる」


 ゲンは楽しそうに笑っている。


 少し待ち、すぐに自分達の番になった。


「私は何をしたらいいの?」

「まあ待ってな……」


 ゲンがレールの上に立った。

 私の後ろから


「あれって局長じゃない?」

「局長が長い黒髪の子を捕まえて仕事放棄したって噂本当だったんだ」

「あの子まだ若いよね? なんで髪長いの?」


 とか、最後は私の事話してたみたいだけど、ざわざわしている。

 なんで長いのかは自身の事なので、さっぱりわからない。

 私は首を傾げる。


「おりゃ! っと、よし準備できたぜ」


 私が首を傾げていると、目の前にクルマが現れた。


「あれ? ゲン?」

「ああ、我だ」

「ゲンがクルマになった……」

「我は機械なら何にでも変身できる」

「……すごい」


 私はゲンに乗った。

 後ろではまだざわざわしている。


「早く行こう。ゲンと私の噂を話してるよ」

「人の噂だ。気にするな。シートベルトしたか?」


 そう言われ、私はシートベルトを装着した。


「おっけー」

「よし、行くぞ」


 ゲンがそう言うと同時に、辺りが一瞬で暗くなった。


「はや! もう宇宙!?」


 窓の外を見ると、青く光る地球があった。


「ああ、宇宙だ。そしてあれが1件目の配達先だ」


 いつの間にか、目の前に小さ目の星があった。

 黄色一色の星だ。

 目の前の星は輝いているが、周囲の星はちょっと暗い。

 私は小さな星を見ながら首を傾げる。


「これが夢の星?」

「ああ、そうだ」

「これってどうしたら入れるの?」

「そのまま降りちゃえばいいよ。降りるぞ」

「うん」


 ゲンはそう言い、星への降下を始めた。

 熱いという感じはないが、重力に引っ張られる感じはする。


 どんどん星へと降りて行く。

 本当に小さい星で、丘が一箇所とそれ以外は一面黄色の畑がずっと続いている。

 その中に一軒のログハウスがぽつんと建っていた。


「……なるほどな。夢の主は高齢の方かな」

「年齢によって星の大きさって決まるの?」

「そうだな。生まれた直後はとても大きいけど、どんどん歳を重ねていくと小さくなっていく。看取りや迎えに行く時はそれも目安にしているぜ」

「そうなんだね……」


 そう言っている間に、畑と畑の間の道に着地をした。

 目の前にログハウスがある。


「あの中にいるのかな?」

「さぁ、どうだろう?」


 私がクルマから降りると、ゲンは元の人型に戻った。

 ログハウスの入り口に近づき中の気配を探る。

 ゲンも窓の中などを確認しているようだ。


「いないね」

「ああ。でも小さい星だし、すぐ見つかるだろ」


 ゲンは丘の方へと移動を始めた。


「そういえば皆浮いていたけど、私もできる?」

「意識しないでもできるはずだが、できないのか?」

「浮けー! って念じてもそんな気配しないよ」

「……ふむ」



 そう言っているうちに丘の前に着いた。

 その丘を見上げると、1人の高齢の人が横たわっていた。

 髪が長いので女の人だろう。


「って、そんな事考えてる場合じゃない! ゲン、あれって」

「……! もうか!」


 ゲンと私は夢の主と思われる老婆に駆け寄る。

 こちらに気づいたようで、身体を起こしてにこっと微笑んだ。


「倒れていたみたいですけど、大丈夫ですか?」

「おやまあ、お客さんですか。これまた可愛らしい天使さんがいらっしゃいましたね」


 どうやら私が天使に見えるようだ。


「ええ、大丈夫よ。若い時にこういう丘で寝転がっていたことを思い出してね。つい、やりたくなったの」


 そう言い、老婆はまたゴロンと寝転がった。


「紛らわしいな……。まあ、何事もなくてよかったぜ。ほれ、ムウ。手紙を渡しな」


 私は老婆に手紙を渡そうとした。

 それを聞いた老婆はまた起き上がり、その手紙を見た。


「おやおや、どこからかねぇ」


 老婆は手紙を受け取る。

 私は、手紙の入ったカバンに再び手を突っ込む。


「うん? 何しているんだ?」

「うん、なんでだろう? まだ何かがある気がするんだよね」


 と言って、ちょっと待つと


「あ、片手じゃ持ちづらい……よいしょ」


 カバンの中から両手で小包を取り出した。


「うお! 珍しい物が出てきたな。それ、手紙の束で、差出人と宛先の人の名字が一緒だ。家族からだろうな」


 その小包を渡そうとしたが、ここだと置く場所がないことに気づいた。


「おばあさん、お家に戻ってからこれをお渡ししたいです」

「ええ、そうねぇ。私には重そうだねぇ」


 と言い、老婆はゆっくりとログハウスへと歩き出した。


「なんでわかったんだ?」


 ゲンが私の側に寄ってきて聞いてきた。


「うーん……なんとなくね」

「ふーん……」


 畑で植えられているのはどうやら小麦のようで、ざわざわと風で揺れている。

 干し草と日向の香りが懐かしい感じがする。

 ざわざわという音を聞いていると、故郷の風景を思い出せそうな気がする。


 私の生前の故郷ってこんな感じだったのかな?

 それとも、こんな場所に行ってみたいと思っていたのかな?


 私は雰囲気を満喫しながら、ログハウスへと進んだ。

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