夢現新星譚

富南

【Ⅰ】夢と現の星間郵便 プロローグ

01 白の部屋と死後の世界と記憶の無い私

「……ここは?」


 目の前には真っ白な天井。

 私は身体を起こし、辺りを見渡す。

 病室という感じがしたが、それよりも、もっと殺風景で窓1つ無い真っ白な部屋という感じだ。

 そして、私の服も長袖で、白一色だ。色が肌の色と長い黒髪の色しかないので、浮いている気分になってくる。

 目も白ではないはずだが、見えないからわからない。


「……何か忘れているような? ……あれ? ……んん?」


 何もすることがなかったので、なぜここにいるのかを思い出すことにした。


 しばらくすると、真っ白な壁に切れ込みが現れ、扉のように開いた。

 なぜここにいるのかって事も含めて、自分の事は憶えていないみたい。

 私はそんな事を思いながらベッドから立ち上がり、その切れ込みから出ると、そこには辺り一面緑の大草原が広がっていた。


「すごーい! 何も憶えてないはずなのに、こんなに広い所は初めてって感じがする!」


 私は思いっきり走り、そして止まってその場に仰向けになって寝転がった。



---



「……んー? なんだろ?」


 しばらく寝転がっていると、妙な気配を感じ飛び起きた。

 私は周囲を確認する。


「うわ! 寝てしまったんだ! さっきの白い部屋に戻らないと日が暮れる!」


 太陽が傾いている。そろそろ夕方なのだろう。


「……え? 何あれ……」


 影になっている所を見ると、さっきまで無かった黒い水溜まりのようなものが増えていた。


「触らぬ神に祟りなしっと……行こ」


 私は気味が悪いと思い、この場を離れた。

 白い部屋の建物を探しながら歩いていると、


「おお……! 何あれでかい!」


 突如目の前に大きな建物が現れた。

 建物は地平線の向こうまで続いているようだ。


「行ってみるか」


 さっきの白い部屋の建物は見つからなくて行く場所が無かったので、私はその建物へと向かった。



---



「やっと着いた……」


 巨大な建物に到着した頃には、すっかり日も暮れ夜になっていた。


「変な黒いのが掴んでくるし、もう早く中に入りたい!」


 至る所から黒い水溜りのようなものが現れ、何かが私の足を掴もうとする。

 私はその巨大な建物を見上げる。そこには


「星間郵便局……」


 と書かれた看板が掛けられていた。


「ここが何なのかはわかった。あとは中に入るだけ! 入り口はどこだ!」


 急いで入り口を探そうと視線を右往左往すると、


「うわ! びっくりした……」


 目の前に急に大きな扉が現れた。

 私は急いでその扉を開け、中に入った。


「ふう……助かった……ん? 郵便を送る人の行列?」


 そこには、たくさんの人や動物の形をした者が並んでいた。そして


「……? ロボット?」


 その先頭付近には忙しそうにしている人間ではない人型ロボットがいた。

 目の前のテーブルには、山のような書類が置かれている。


 しばらく列の様子を観察していると、並んでた人は忙しそうな人型ロボットの前に立ち止まり、それ以外はそのまま開いた扉に吸い込まれるように進んでいた。

 並んでた人は話を聞いた後、青い扉の方に向かい、扉前の人から何かを受け取っているようだ。

 そしてその後、青い扉の中へと入っていった。

 人以外が入った開いた扉の先は真っ白で全く見えず、ずっと見ていると私自身も吸い込まれそうと恐怖を感じた。


「……さっきの黒いのと似たような感じがする。あまり見ないようにしよ」


 私は目を閉じ、扉を見ないように列に並ぼうとした。


「あ? お? おお?? おーー!!」

「なになになに!? わわわ!! 運ばないでー!」


 突然人型ロボットが私を見つけたかと思ったら、私を抱えてテーブルの前まで運ばれてしまった。


「…………」

「いやぁ、すまんすまん。つい、はしゃいでしまったぜ」

「テンション上がったら人を抱えて運ぶんですね……」

「すまんな。ようやく来たからな。あーその前に確認だが、あの扉から入ってきたよな?」


 ロボットは私が入ってきた扉を指す。


「はい。あそこから入ってきましたよ」

「うんうん……! じゃあ、あと1つ質問。そなた、自身の事憶えてないだろ」


 ロボットはニヤリと笑う。

 今更だが、喜怒哀楽を表現できるロボットのようだ。


「憶えてないですよ。え? てか、なぜそれを?」

「おっけー大当たりだ。待ち人が来た。我の業務はこれにて終了だ。わはははは!!!」


 そう言いながら、テーブルの下から大きな立て看板を取り出して、テーブルの前に立てた。


「あとはこの看板見て、読めたらあっち行け」


 ロボットは青い扉を指した。


「逆らってもあいつらがあの扉まで運ぶからな」


 ちょうど反抗して見ると吸い込まれそうになる大きな扉に向かった人が、扉の番人のような鎧に捕まり、青い扉の方に投げられてしまった。


「運んでないし……投げられたし」

「どっちでも変わらん。どうせ死んでいるからな」

「ちょっと待って。聞き捨てならない事を聞いた気がするんだが?」


 私はロボットに詰め寄る。


「なんだ? ……ああ、そういえばそれも憶えていないのか。じゃあ、順を追って説明しよう。立ち話も何だし、そこに座っていいぞ」


 たくさんの人が横切る前でロボットと対面で座る。

 すごく落ち着かない。


「いや気になるけど、場所変えない? ここ落ち着かない!」

「それもそうだな。部屋に行くか。ついて来い」


 ロボットは青い扉に向かう。

 途中、扉の前に立っている人から封筒のような物を受け取り、それを私に押し付けてきた。


「これは?」

「お金だ」

「あ、うん……うん? お金?」


 封筒を開けると、紙幣が入っていた。結構厚い。


「死んでても飯は食わんと消失するからな。ちゃんと食えよー」

「えっと私、死んだのかもわからないんだけど……」


 ロボットが青い扉を開くと、そこはとてつもなく広い空間になっていて、上も下も人だらけだった。


「すご……! てか、浮いてる!? ねえ、人が浮いてるよ!」

「ああ。だから死んでるんだって。ほら、あそこが我の部屋だ。そこで教えてやるよ」


 青い扉の近くに、局長室と書かれた表札が貼られた扉があった。


「局長?」

「ああ。申し遅れた。我はこの星間郵便局の局長のゲンだ。よろしくな、ムウ」


 扉の前で仁王立ちをするロボット改めゲン。


「よ、よろしくお願いします……ムウ? それが私の名前?」

「ああ、そうだ」


 ゲンは扉を開き、電気を付けた後、ソファに座った。

 私も反対側に座る。


「それで……私死んでるの?」

「まあ、この世界に来たってことはそうだろう」

「ここは?」

「ここは死後の世界の地球だ。んで、我ら郵便局員は、宇宙空間にある生者の夢の星に手紙を配達しないといけない」


 ゲンは天井を指した。

 おそらく空を指したのだろう。


「死んだらお空の星になる……って、生きてる人が星になってるじゃん!」

「なに1人でボケツッコミしてるんだよ。でもまあ、そんな言い伝えもあるよな。ある意味的を得ている」


 ゲンは立ち上がり、ガチャガチャと何かを準備し出した。


「コーヒーは飲むか?」

「いえ、飲めないです」

「じゃあ紅茶な。それで、ムウには郵便局員として生者の夢の星に入って、主に手紙を配達してほしい」


 私の前に紅茶を置きながらそんな事を言った。


「ありがとうございます。いきなり配達してって言われても……まあ、やる事ないから別にいいけど……」

「話が早くて助かる」


 そう言い、自分用として入れたと思われるコーヒーを飲んだ。


「……え? 飲めるの? 局長ってロボットだよね?」

「これは魂の器だ。中身が吸収してるから問題ないぜ。あと我のことはゲンでいい」


 そう言いながら、コーヒーを一気に飲み干した。


「そうなのね……そういえば、私を待っていたってのは何? 私、ゲンみたいなロボットとか初めてだと思うんだけど」

「気にすんな、こっちの事情だ」

「あ、そう……それで、これからどこに行けばいいの?」


 それを聞いたゲンは、テーブルの上にカップを置き、部屋の奥へ行き、何かを持って戻ってきた。


「ほい。これが制服だ」


 ゲンが郵便局員の制服と思われる服を、渡してきた。


「サイズはどうやって調べたのさ、スケベ」


 私はゲンから制服を受け取る。


「あ? どこでそんな言葉を覚えた。皆んな同じ身体なんだから、見られても気にしないだろ」

「いやそうだけど、恥ずかしいのは恥ずかしいよ」


 私は部屋の奥へと行き、制服に着替えた。


「はい、これでいい? てか、何この服すごいんだけど」

「着た人の身体に調整される機能付きだ、すごいだろ。まあ、神が作った物だからな」

「そうなんだね……神様ってやっぱりいるんだ……」


 私は再びソファに座る。


「ああ、いるぜ。生物がどうやってできるか知っているか?」

「学校で学んだ程度の知識だったら……えっと、好き合った2人でお空に願うと、片方のお腹に子が宿り髪が長くなる。もう片方は身体が更に頑丈になり背が高くなる。だよね」

「ああ、それだ。あれは全部、神が作ったシステムのおかげだ」

「それってどういう……」

「まあそれは配達しながらでもいいだろう。行くぞ」


 ゲンはソファから立ち上がり、扉を開けて外に出て行った。


「……なぜ今生物がどうやってできるかって聞いたんだろ? 神のシステム?」


 私は首を傾げながら、ゲンを追いかけるために外へと出た。

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