恋はふとした瞬間に...⁉︎

とよたま

第1話

「これでいいんだろ。これで」


 高校生活が始まってはや半年。俺はようやくインスタとやらを始めてしまった。今どきの高校生はインスタくらい入れておかないと、勉強も恋愛も成就しないぞと友人に言われ、初めてインストールした。

 別に俺は、難関大を目指して勉強しているわけでもない。ましてや恋愛などという面倒くさいことなどしたくないのだけど。


「友達をフォローしよう?」


 スマホの画面に出てきた文言を読み上げる。とりあえずあいつだけはフォローしておこうか。


「三宅、と。あいつフォロワー多いな」


 三宅をフォローして、もう一度自分のプロフィール画面に戻る。

 フォロワーが1と表示されている。もう返してきやがった。

 友達があいつしかいないから、これ以上どうやって増やせというんだ。


「また後にしよ」


 俺はスマホをリビングのテーブルに置いて、ソファに身を投げた。

 その瞬間だった。

 テーブルの上のスマホがブーっと震えたのは。


「なんだよ。なんか送ってくるならそう言えよ」


 重い腕を上げて、テーブルを手当たり次第探ってからスマホを手に取った。通知は一件。新しいフォロワーと表示されている。

 怪訝さと好奇心が同時に頭をよぎったが、後者に勝てるものはなかった。


「iroha? 誰だこいつ」


 数少ない友人関係の中にこんな名前のやつは存在しない。プロフィールだけ見て分からなかったらブロックしよう。と思いつつプロフィール画面に移動する。

 森ノ原学園と書いてあった。この辺じゃかなり名の知れた私立高校じゃないか。確か俺の出身中学校からも、何人か進学していたはずだ。

 フォロワー数は五百を超えている。アイコンはどこにでもありそうな桜の木で、ハイライトには『trip』や『日常』などの項目があった。

 ふと、ピコンピコンと通知が追ってきた。


「え?」


 例のirohaからメッセージが送られてきたらしい。DM欄を開けずに通知だけに目を通す。


『突然フォローしちゃってごめんね。谷咲いろはって覚えてるかな? 一応同じ大森中出身なんだけど』

「谷咲、いろは」


 何故か口馴染みのある名前を口に出してみる。

 大森中出身? 卒アルを確認しよう。

 スマホ片手にリビングを飛び出して、二階にある自分の部屋に駆け込む。押し入れから卒アルを引っ張り出してきて、ページを捲っていく。


「谷咲、谷咲、」


 妙だな。女友達なんか数人しかいないのに、その名前に覚えがある。もちろんその数人には入っていないというのは無論のことだ。


「あった。三年四組十八番、谷咲いろは」


 当たり前だけどクラスもちが、あっ。

 思い出した。


「誰もが認める学年一の美少女で、成績優秀スポーツ万能、人当たりもよくコミュ強だし、非の打ち所がない完璧な人だ」


 名前に口馴染みがあったのは、中学でよく話題になっていたからか。

 それよりも、なぜそんな人が俺なんかに連絡を。


「そうだ、返信しないと」


 もう一度DM欄に目を落とす。


(なんで送ればいいんだろう)


 もちろん彼女いない歴イコール年齢の俺だし、そもそもまともに女子と喋ったことすらごく僅かしかない。

 ラインの友達だって、母と姉を除けばトークしている人なんてほぼゼロだ。


『もちろん覚えてます。急にどうしたんですか?』


 いやキモいな俺。改めて自分が送った文面を眺めると、恥ずかしくて死にそうになる。黒歴史ってこうやって増えていくんだな。

 ピロン、とすぐに返信がきた。


『よかった! 突然でごめんなんだけど、今から会えたりする?』


 何を言ってるんだこの人は。俺と会う? 会ってどうするんだ? 中学時代一言も言葉を交わした記憶もないのに?

 無数の疑問が次々と頭に浮かんでくる。俺はとりあえず返信を打った。


『全然いいですけど、どこで待ち合わせますか?』

『今から一時間後に、大森中の前はどう?』


 それは今からと言えるのだろうか。


『分かりました。待ってます』


 そこで会話が中断された。なぜか俺の送ったメッセージにハートマークの反応が返ってきた。なんだこれ。


「新手の詐欺かなんかか?」


 ──一時間後。律儀に俺は大森中の前まで来てしまった。

 ちょうど部活が終わるころの時刻だからか、部活着を着た中学生たちがワラワラと校門から出てくる。


「ここにいるのは流石にマズいか?」


 まぁでも、勝手に待ち合わせ場所を変えるのは良くないか。俺は校門から少し離れたところにあるベンチに腰掛けた。


 十五分ほどぼーっとしていると、向こうから谷咲さんが走ってきた。


「ごめーん、バスが遅延しちゃっててさー」


 黄金色の長い髪を揺らしながら、彼女──谷咲いろはは俺の前までやってきた。

 

 

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