第1話-⑲

靴を脱ぎ部屋に入る。


「ねぇ、真雪まゆき、ご飯食べてないでしょ ほら色々買ってきたのよ、日持ちするの」


「だからこんな食べれないって」


たちばなは買ってきたものをキッチンのスペースに並べ始める。

ふたりであーだこーだ言い合うふたり。

学校で見る真雪まゆきとは違った一面が見れて、こんなにも表情豊かなのだと知る。

その様子を少し眺め、真雪まゆきの体調は比較的良さそうだし、俺はふたりに声をかけた。


「俺帰るわ」


「「え"っ」」


ふたりが一斉に俺の方を見る。

ふたりして目を見開き驚いた顔をしていてちょっと笑った。


真雪まゆきの様子見に来ただけだし、元気そうだから安心した。たちばなもいるし、帰るわ」


「ぁ…そう?」


真雪まゆきのその返事にたちばな真雪まゆきの腕を肘で小突く。

俺は玄関へ続く廊下を歩き、靴を履く。


すると後ろから制服のシャツを引っ張られる。


梶野かじのくん」


後ろから真雪まゆきの声がした。

振り返ると真雪まゆきが立っていた。


「昨日は、ありがとう 食べ物も」


「あぁ、いいよ 全然、体調良さそうで良かった」


「うん。ぁ、お金!お金返すよ いくらだった?」


手には財布が握られていて、申し訳なさそうな顔をしている。逆に気を使わせてしまった…と反省した。


「いいよ、俺がしたくてした事だし」


「でも…」


「いいの、いいの 俺の善意だと思って受け取って…」


「んー」


何か納得がいかない真雪まゆき


「…俺が何かあった時は頼むわ」


そう言うと真雪まゆきは渋々「わかった」と返事した。困った時はお互い様だ。


「じゃあ、明日学校で」


「うん、また明日 本当にありがとう」


「おう」


そう言って真雪まゆきの家を後にした。














梶野かじのくんの帰りを見送り、リビングに戻る。


「ぇ、本当に帰っちゃったの?海晴かいせいさん」


「うん、帰ったよ」


「私お邪魔だったかしら…」


澄麗すみれは顎に手を当て考えるように言う。


「違うから…そうじゃないから」


「でも、今日も来てくれるなんて本当に海晴かいせいさんって優しい人ね」


「ん、だね」


俺はベッドの上に座る。


「良かったわ、真雪まゆきに友達が出来て」


「…友達」


俺はボソッと呟いた。


「友達じゃないの?」


「…友達だよ…」


友達…。友達だ。梶野かじのくんは友達だ。

俺はゴソゴソっと布団の中へ潜る。


「寝るの?」


「うん、ちょっと」


「宿題しててもいい?」


「どうぞ」


梶野かじのくんは友達だ。

自分に言い聞かせるように心の中で呟く。

インターホンが鳴り玄関の扉を開けた時、梶野かじのくんがそこにいて俺は嬉しいと思ってしまった。そう思ってしまったのは確かだ。

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