宝良ひいらぎ たから said



暗い空に少し強い風。

屋上の柵の向こうで震える足。


頭では死にたいと思っているのに身体は拒否反応を示す。それがおかしくて笑いそうになった。


その瞬間握られている手にぎゅうと力が入る。

隣には同じく暗い瞳をしている彼女の姿。


明らかに乱れた服に殴られたであろう頬。

何をされたか簡単に想像が出来た。

でも俺は何も聞かなかった。聞けなかった。



「俺たちには神様がいないみたい」



そんな言葉が出た。本当に笑えるような人生だ。



「君が死んでも明日は来るし、世界は何も変わらない」


「…………」


「…それでも、俺と一緒に死ぬ?ふたりで」


初めて目が合った。

今にも泣きそうな…でも芯のある瞳。


「…ふたりなら怖くないね」


その言葉に俺は微笑んだ。

そうだ、ふたりなら怖くない。

怖くない…けど、ごめん。救えなくてごめん。

こんな選択でしか君を救えない俺を許してほしい。


屋上から下を眺める。


「俺がこっち。君は右。」


「………?」


きょとんとする君の顔に最後の願いを込めた。


「なんとなく。次生まれ変わったら幸せになれたらいいな…」


俺はもういいから…だから神様というひとがいるなら あずまにもう一度チャンスを上げてくれないか。俺には止める権利も止める覚悟もないから、だからもしこの選択で あずまが助かったなら、どうか…どうか。

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