リアゾン⑪
三人が
靴を脱ぎ、真っ直ぐ廊下を進む。リビングのすりガラスの扉からは暖かな光が漏れていた。
-カチャ
「…あら、お友達…じゃないわね」
こちらに気づいた女は三人の姿を見て薄ら笑みを浮かべた。40前後であろうその女は料理の手を止め三人の前に立つ。
「…お母さん」
不安げに母を呼ぶ
女は交互に
「…【リデルガ】の方よね」
「…はい、今からあなたの記憶を消させて頂きます」
女は
「ちょっと、待って!」
その空気を壊すように
「…ぁ」自分で声を上げて自分で驚いた。
どうして止めてしまったんだろう。
記憶を消されようと受け入れる母親の姿にどうしてたが咄嗟に言葉を発してしまった。
母にとって
分かっている…分かっているのに…
するとその様子を見ていた女は、
「…お母さん」
「…ごめんね、
初めて聞いた言葉だった。
母の口から謝罪の言葉なんて…。
悲しそうな瞳で
-どうして、そんな目をするの?
「お願いします」
女のその言葉と共に
その姿を見た時、あぁ消えたんだ…と
「
ボーッとする女を横目に
「…あら、
その言葉を聞いて三人の動きはピタッと止まった。
「…
「…もちろん」
「…
女は混乱している様子だった。
消したはずの記憶と抗おうとする無意識の意識が交錯していた。
「…愛して、るわ。
混濁する意識の中で発した言葉。
その場の全員が聞いた。
「…あの人の宝物…」
その言葉を最後に女の意識はなくなり、眠りについた。
「…愛してる?なに、それ。」
蘇るのは怒った顔ばかり。
叩かれて殴って、罵倒されて…いつも怯えて生きてきた幼少期
吸血衝動にかられた時も
『我慢なさい』
そういって見放した。
慰めたり、優しく撫でてくれることもなく
ただ冷たい視線を送って…。
そんな人に愛さてる実感なんてあるはずがない。ただただ耐えなければいけない地獄の日常の中で翼と母親の繋がりなんて育まれるはずがなかったのだ。
「…私のこと邪魔だったんじゃないの?産まなきゃよかったってそう思ってたじゃなかったの?ねえ、お母さん!!」
愛してるなんてそんな言葉…。
取り乱す
すると意識を取り戻した女はゆっくりと瞳を開け、目の前の
「…あなた誰?」
もう一度目を覚ました女は
「…あら、泣いてるの?大丈夫?」
そういって
ずっとずっと夢見てた。
母に優しくされたくて、言うことを聞いて良い子になれるように頑張って…それでも一度も頭を撫でてくれたことなんてなかった。
こんな風に叶っても何も嬉しくない…
「
身体に力が入らず、立てない
「その子、大丈夫?」
「ええ、大丈夫ですよ。では失礼します」
女も穏やかに笑う。
-そんな顔私は知らない…。
もう何も見たくなかった。聞きたくなかった。
こんな最後にずっと願っていた事が叶ってしまった。こんな叶い方何も嬉しくない。
ーさようなら、お母さん。
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