9
町中にそれはあった。
元々は町民の憩いの場だったらしいのだがそこに間借りする形で建てられたのだという。
――慰霊碑だ。
4年前に病で命を落とした人々の。
「おじさん、おばさん、みんな。
エフィ、帰ってきたから」
そう言ってウォルトが花束を置くのに倣ってエフィも花を捧げる。
「リヴェズ、あんたも……」
「いや、僕はここでいいよ」
――ここに来る資格も、ないからね。
それは口に出さず、少し離れたところから意外に泣いていないエフィを見つめていた。
エフィは今までのことを必死に慰霊碑に――父と母に報告している。
それが終わって間があって。
ウォルトが慰霊碑の下の石を動かした。
「ここ、小さな供え物を入れられるんだ。
なあ、エフィ。
そのペンダント、ここに入れてみねぇか?」
「……え?」
反射的にエフィの手が貝殻のペンダントを握り締める。
「ずっとお前が身に着けてたし、お前が帰ってきたって証拠だろ?」
笑顔で言われ、エフィは押し黙った。
――やがて――
ペンダントを外し、ウォルトに渡す。
「ありがとな。
みんな、ほら、エフィも一緒だ」
気が付くと、ウォルトが必死にリヴェズに目配せをしている。
「エフィ、こっちにおいで」
ウォルトの意図を汲み取り、エフィを手招きした。
「それじゃ首元が寂しいね」
言って昨夜ウォルトに見せたネックレスをかける。
イヤリングと揃いのピンクオパールのものだった。
「……気に入らないかな?」
気に入る気に入らないではなく、貝殻のペンダントを手放した衝撃が強いのだろう。
それでも、
「ううん。ありがとう」
そっと手でネックレスに触れながら笑顔で言う。
「じゃ、町の中案内するぜ。
何日ぐらいここに居るんだ?」
ウォルトが言って歩き出すと、2人も付いて行った。
◇◆◇◆◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます