第2話



「俺、回復術師初めて見た!」


 一緒に並んで歩きながら、先程の木刀の一件を見事に忘れた様子で少年――ウォルトと名乗った――が興奮して言う。


「顔の傷も消えたし、エフィも治しちゃったし、すげー!」


 木刀の件は忘れたのではなく、悪いことではなかったと思ったらしい。


「回復術専門ってわけじゃないんだけどね」


 長い黒髪に端正な顔立ち。年の頃は20代後半か。長身で体格も良い。

 腕の中の短い栗色の髪の愛らしい少女は、すやすやと眠っている。


「……で、聞かせてもらえる?

 なんであんなところにこんな病気の子を連れて来てたの? 大人の人は?」


 笑顔で、しかし逃げ場のない口調で問われると、ウォルトが怯む。


 暫し、木漏れ日の注ぐ森の中に2人分の足音だけが響いた。


「……聞かせてもらえる?」


 リヴェズの笑顔は段々と洒落にならなくなっていた。

 いよいよ逃げはないと悟り、ウォルトが罰が悪そうに口を開く。


「……景色が、キレイだったから……」

「……ふうん?」


――理由になっていないよ?

 暗にリヴェズがそう促す。


「その……エフィはあんまり外に出られなくて……」

「この病状じゃあ、そうだろうね?」


「……気分転換にって……」

「……うん?」


「黙って連れてきましたごめんなさいっ!」


「それはこの子に言うんだね。

 あと、親にも謝るんだよ?」


 意外にあっさりそう言う頃には既に村の入り口が見えていた。


 ――拳骨で済むかな……?

 黒く短く刈られた髪の少年はそう希望を抱いたが、無論それで済む筈はなかった。



◇◆◇◆◇


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