万年Cランクの冒険者ガルド
雪白紅葉
ベルガルド編
第1話:「万年Cランクのゴブリン退治」
ここは、ファーンドル王国のベルガルドという小さな街。街の中心には冒険者ギルドがあり、日々多くの冒険者たちが集まり、クエストをこなしている。そんなギルドに所属する万年Cランクの冒険者、ガルド。彼は今日もいつものようにギルドの扉をくぐった。
四十を過ぎた彼は、少し太り気味の体と、白髪が混じる無精髭の姿が特徴的だ。特に目立つわけでもない、どこにでもいるような中年冒険者。その装備も、使い込まれた剣と盾が目に留まるが、古びていて新しい装備品に見劣りする。しかし、彼は不満などなく、今日も身の丈に合ったクエストを淡々とこなしている。
ギルドのカウンターには、エルフの美しい受付嬢、エリシアが立っていた。彼女は銀髪がきらめく美しさと、優れた対応力でギルドの人気者だ。
「おはようございます、ガルドさん。今日もお仕事ですか?」
エリシアのやわらかな声にガルドは軽くうなずく。
「ああ、今日もいつものやつだな」
ガルドはいつもの調子で返事をすると、エリシアが差し出すクエストの書類に目を通す。今回の依頼は、近隣の村から依頼された、小規模なゴブリンの討伐だった。報酬はそれほど多くはないが、ガルドにはおなじみの内容だ。
「ゴブリン退治か。楽じゃないが、まぁ、手頃だな」
エリシアが心配そうな顔をしながら、彼に注意を促す。
「最近、ゴブリンたちが少し凶暴化しているとの情報がありますので、気をつけてくださいね。ご無事で帰ってきてください」
「いつものことだ。心配はいらないよ」
ガルドは苦笑しながら書類を受け取り、ギルドを後にした。道中の空は澄み渡り、穏やかな風が彼の顔に当たる。Cランクのクエストにしては、いつもと変わらない平凡な日常だった。
森へ向かう道中、ガルドは街から少し離れた場所にある小さな村にたどり着いた。村人たちは彼を温かく迎え、ゴブリンの出没場所について簡単な説明をしてくれた。彼らの話では、最近、村の近くでゴブリンたちが夜な夜な活動しており、家畜を襲ったり、畑を荒らしたりしているという。
「どうせいつものように数匹ってとこだろう。大した問題じゃないさ」
ガルドはそう言い、村人たちに安心するよう促した。彼は手慣れた様子で装備を確認し、森の中へと足を進めた。
しばらく歩いていると、遠くでゴブリンの鳴き声が聞こえてきた。ガルドは静かにその方向へ向かい、やがて小さなゴブリンの群れを発見する。彼らは木陰に隠れながら何かを探しているようだった。
「よし、これくらいなら一人で十分だな」
ガルドは剣を抜き、慎重に近づいていった。ゴブリンたちは彼に気づく前に、次々と倒されていく。普段のゴブリン討伐と何も変わらない、手際の良い作業だった。
だが、残りの一匹を倒した瞬間、背後から突如、奇妙な物音が聞こえた。ガルドが振り返ると、そこには通常のゴブリンよりも一回り大きく、牙をむき出しにしたリーダー格のゴブリンが立っていた。
「ほう、リーダー格か。久しぶりに手応えがあるな」
ガルドは微かに笑みを浮かべ、構えを取り直す。リーダーゴブリンは威嚇するように吠え声を上げ、一直線にガルドへ突進してきた。
リーダーゴブリンは、その巨体に似合わず素早い動きでガルドに迫ってくる。だが、ガルドは動じることなく冷静に対処する。リーダーゴブリンの突進を受け流し、鋭い剣筋で反撃を加える。
「思ったより動きがいいな……だが、まだまだ甘い」
ゴブリンはしばらくの間、激しくガルドに攻撃を仕掛け続けたが、そのたびに彼は巧みに攻撃をかわし、的確に反撃を加えていく。やがてリーダーゴブリンは疲労し始め、ガルドに隙を与える。
「ここで終わりだ」
ガルドは機を見て、一気にゴブリンの急所に狙いを定めた。剣が鋭く閃き、リーダーゴブリンの首元を貫く。しばらく呻き声を上げていたゴブリンは、やがて力を失い、その場に崩れ落ちた。
「ふう……終わったか」
息を整えながらガルドは剣を鞘に収め、倒れたゴブリンたちを確認した。これで村の安全は守られた。
ガルドは討伐の証拠としてゴブリンの牙をいくつか回収し、村へと戻る準備を始めた。いつも通りの仕事を終え、特に問題もなく完了したことに満足感を得た。
討伐を終えたガルドは、無事に村へ戻り、村人たちにゴブリン退治が完了したことを伝えた。村人たちは彼に感謝し、簡単な食事を振る舞ってくれた。彼はそれをありがたく受け取り、しばらくの間、彼らと和やかな時間を過ごした。
その後、ガルドはギルドへと戻り、エリシアに報告を行った。
「おかえりなさい、ガルドさん。無事に戻ってきてよかったです」
エリシアは微笑みながら彼を迎え、手早く報酬の準備を整えた。ガルドは淡々とクエストの書類にサインをし、討伐の証拠となるゴブリンの牙を提出した。
「いつも通りだ。特に問題はなかったよ」
「本当にいつも通りですね。でも、少し危険だったと聞きました。無理はしないでくださいね」
エリシアの言葉に、ガルドは少し苦笑しながら答えた。
「俺の仕事はこういうもんだ。心配するな」
彼はそのままギルドを後にし、家へと帰っていった。ガルドはその夜、静かに眠りにつき、明日もまた同じように仕事を続けるだろう。自分のペースで、地道に。彼にとって、それが一番の生き方だった。
翌日も、ガルドは変わらずギルドへ向かい、新たなクエストを受け取る。そんな彼の姿を見守るエリシアやギルドの仲間たちは、彼がただの「Cランクのおっさん」以上の存在であることを薄々感じていたが、それを口に出す者はいなかった。
街の人々にとって、ガルドはいつものように頼りになる「おっさん」であり続けるのだった。
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