波乱京丈〜人生は何が起こるかわからない~
華厳 秋
英雄誕生編
第一章 始動・覚醒
prologue 輪廻転生
天気は、空に雲一つ見えないきれいな晴天。思わずあくびが出てしまいそうな、そんな春の温かい日差しが照り付けている。
暖かい太陽の光を含んだ春風が、一つの大樹の葉とその根元に座る青年の顔をなでる。
その青年は、眠っていた。彼は、深いとも浅いとも言えない曖昧な、それでいて何処か心地よい眠りから、少しずつ意識を覚醒させていた。
少し時間をかけながらも、完全に意識を覚醒させた青年は、その場からゆっくりと立ち上がり一度伸びをして体をほぐす。
そして、起き上がった彼は、大きく息を吸い込むなり突如として奇行に及ぶ。
「よっ———しゃああああああぁぁーーー!」
まるで獣のような勝利の雄叫びが、大樹とその周辺に広がる平原に響き渡る。
平原の草は揺れ、大樹に止まっていた鳥たちは一匹残らず空へと逃げていった。
なぜ、彼がこのような摩訶不思議な行為に及んだのか……。その真実を知るには、少し前に時間を遡る必要がある。
それは、数時間前のことだった…………。
───────────────────────
俺は、
“元”と付くのは、俺がもう大学生ではないからだ。
今の状況を簡潔に説明するならば………俺は、死んで神と二者面談している、以上。
この話を聞いた人は、きっとこう思うだろう。『何その状況?』と。そんな、貴方たちに言いたい……
「そんなの俺も知りたいわッ!!」
「うわッ!なに!?」
そう俺が叫ぶと、ちゃぶ台を挟んで目の前に座っていた少年が過剰なほどに驚き、手に持っていたペットボトルを床に落とした。
「あぁー、すまんすまん、つい叫んじまった。発作だよ発作」
「何が発作だよ!あぁ……ボクの愛しの午後ティーが……」
少年は、自分が落としてしまったペットボトル———午後なのに午前に飲むという大罪を犯す人が後を絶たない、人気紅茶飲料———を丁寧に拾い上げ、此方を睨みつけてきた。
「まだ、ちょっとだけ残ってたんだけど!」
「ごめんて。まぁ、また出せばいいだろ。お前、神様なんだろ?」
俺がそう言うと、溜息をつきながらも新しいボトルをどこからか取り出すので、ちゃんと俺の分を要求するのも忘れない。
少年もとい、神ビシュトが言うには、ここに時間の概念はないらしいので、今飲んでも罪を犯すことにはならない。
「はぁ……、わかったよ。———全く、もう少し神を敬う気持ちがあってもいいと思うんだけど」
キンキンに冷えているペットボトルを神ビシュトと名乗る少年から受け取り、渇いたのどに冷えた紅茶をいっきに流し込む。
「ぷはぁ!やっぱ、美味いなこれ」
この、甘すぎない、微妙な甘さ加減が堪らないのよ。
これを作った人は間違いなく天才だな。
「そういえば、レモンティーとかミルクティーとかもあるのか?」
「勿論!あるに決まってるじゃないか!」
ビシュト………お前、分かってるじゃないか。午後ティー三種の神器を揃えているとは。少しは見直したぞ。
「なんだ?その見直したぞ、とでも言いたげな顔は」
「実際、俺は見直したぞ。というか、そろそろ本題に入ろうぜ」
そう俺が促すと、ビシュトは呆れた顔でこちらを見てくる。
「はぁ、なぜだろう。君と会話するとすごい疲れるよ」
「大丈夫か?さっきから、ため息ばっかりついてるけど。どうした、話聞こうか?」
「誰のせいだと思っているのかな?」
え、何?なんで俺のこと見てくるの?もしかして、俺のせい?
「一対一で俺のせい?」
「百対零で、君のせい」
冷めた目で此方を睨み、そう断言した。
「え、ひどくない。せめて、百対五十ぐらいにしてよ」
「じゃあ、別にいいよそれで」
俺とまともに会話するのをあきらめたのか、手をひらひらと振りながら、ひとりでに話始める。
「もういいや、さっさと話しちゃおう。結論から言えば、君には異世界に転生し————」
「———OKわかった、今すぐ転生しよう」
自称——いや、本物の神ビシュトが話始めたのは、俺が生前から待ち望んでいた事についてだった。
「あのさあ、そろそろ僕も怒るよ?———全く、あの時はもっと可愛げがあったのにな」
ビシュトがなんか言っている気がするが、今はそんなのどうだっていい。
今まで、ずっと待ち望んできた異世界への転生……それがついに叶うのだから!
「んで、結局俺は何をすればいいんだ?」
「だから、最後まで聞けってば!はぁ、君にやってもらうのは————」
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そして、今に至る。
転生できた嬉しさのあまり、あのような愚行に及んだというのが、あの雄叫びの真実であった。
うん、本当にどうでもいいね。
肺の空気を全て叫び声に乗せて吐き出し終わり、転生前にした、ビシュトとの会話をざっくりと思い出しながら体の具合を確かめる。
「ふぅ、体の方は大丈夫そうだな。それどころか、元気になっている気がする」
色々あって、週に一回ぐらいしか外に出なかったから、体がちゃんと動くか不安だったけど今の所は大丈夫そうだ。
「待ち望んでいた異世界転生に、新しいやるべきことか……最高に楽しそうじゃないか!」
彼は、心底嬉しそうに口角を上げると、自身の右手を左胸にそっと添えた。
(さくら。やっと、僕の夢が叶うよ)
少しの間、目を閉じながら天を見上げ、心の中でそう呟くと平原を歩み始めた。
彼の過去を知るのは、神と彼自身のみだ。
一柱の神は神は祝福する、新たな英雄の第一歩を。
人々は願う、この理不尽な秩序の破壊と新たな平和の創造を。
「さあ、見せてくれ!新たな英雄の
そして、英雄譚のページはめくられる。誰も知らない、まだ見ぬ結末を目指して。
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