飯マズ脱却の為ならサブカルを布教する

@reesya

第1話

ジャンルでSFがあるのは某有名な小説サイトで良く見ていた。

すっごく好きだし、私も同じことが起こったら同じ経緯を辿るとひたすら共感したものだ。

でも、それは恵まれているから余裕がある主人公にだけできた特別な事なのだろう。

現に自分は猛烈にむせび泣くこととなった。


「うぎゃあああ」


口の中に入るエグみが脳を破壊しにきている。

生まれた星で一番マシな私ランキング1位な食べ物でこれ。

味覚を失いたい。

前世の記憶というなまじ厄介な呪いとも言えるそれのせいで、転生した世界の食べ物がマズイという不幸。


何年経っても慣れない。

いや、味覚は慣れていて、これなのかもしれない。

絶望しかない。


「またやっているのですね」


泣きわめいている最中、無表情で現れた幼女に目を向ける。

彼女はその体躯に似合わない、大人びた態度でこちらへ来た。


「アルメイ。煩くてごめん。でも、ご飯食べないと書けないから」


「気にしないで良いですよ」


優しく対応される。

異星人の星【ゼクシィ】

付録はついてこないのでご注意を。

なんて、このネタは転生した初日に消費してしまったのだが。

誰にも通じない地球ジョーク。

私も例に漏れず幼女なのだが、かれこれ15年も生きている。


成長しないのは栄養的なものがこの星にないので生きるためにエネルギーを維持できる小さな種族に進化したのだろう、という仮説。

現に自分達の親は5歳時のこちらに比べて、8歳時くらい。

それでもあまり見た目が変化しない。

技術は地球でいう近未来を煮詰めたような世界観だ。

それでいて、魔法みたいな科学力も使えるが、いかんせん食べ物関連に関してはみんなの味覚が死んでるせいで、味付けが無味か不味いの二択。


甘いとか塩辛いとかも、ない。

海もないので果物といったものも存在しない。

人口の水があるが、そんなの通過儀礼でしかない。

なにが悲しくて飯マズの星なのだ。

技術力と魔法があっても、希望をチリも感じない!

栄養は必要だから日々我慢して食べている。

まっずいので、泣いていたら嘆きのリーシャと言われて遺憾だ。

嘆いてはいるけどさあっ。

そんな私にも友達はちゃんといる。

食べ物に関連しなければ普通の子だもん。


「おーい!二人共!面白いこと聞いたぜ!」


走ってきたのは、五歳児のやんちゃさを保つ男の子。


「ジャニク。良く走り回れるね」


ここは荒野なので近隣の迷惑にはならないけど、激しい運動はやめたほうが良いよ。


「走りてぇもん!走るぜ俺は」


5歳児に見えるが、確かもう16歳とかじゃなかったっけ?

いけない、忘れてしまう。

見た目が小さくて本当の年齢の意味をなしてないから。


ぷくぷくした手を振り回して面白い事を告げるジャニク。


「聞けって。ゼクシィ管理部門が見つけた星の更新を公表したから見たら、お前のチキューが載ってたんだぞ」


「……ふゃ?」


脳が理解を超えて、口をぽかんと開けるしかない。


「な、なんて?もう一度、あ、い、言って?」


ち、地球。


「チキューが見つかったのですか?」


「アルメイ。そうなんだよ。リーシャが喜ぶと思って、連絡じゃなくて直接教えてやろうと爆走してきた」


メールは私の脳内変換だから、本当は違う名前だ。


「あり、が、と」


「息を吸っては?」


「吐くのも忘れるな」


2人から言われて、30分後に漸く体が動いた。

錆びついたブリキ人形みたいに。


「み、見たい。見れる?」


「ああ、お前の機器にも入ってるから見れるだろ?」


「リーシャの方が良く見てるのに、忘れてしまうくらい動揺しているせいです」


「あ、う、うん。見なきゃ、見なきゃ……ボタン、ボタン」


「大丈夫かあ?オレが見せてやるよ!ほら!」


フォン、と空中に映し出される半透明な板。

スクロールとかなんとか言われている。

スマホみたいなもので、スマホよりも高性能なものだ。


ゼクシィ管理部門が発行している、正式に確認された星のリスト。

そこには確かに天の川銀河に位置する地球。

英名ではジ・アースとも呼ばれている。

太陽系第3惑星。

表面に水。

空気中に酸素を大量に蓄えている。

人類及び、多種多様な生命体が生存することが特徴。


それを見た途端、ポロポロと涙が出て、二人はまた嘆いているのを眺めた。


「違う。これは違う。嬉しいから出たやつ……!」


2人になんとか説明すると「え?」と戸惑った声。

幼馴染3人はいつも一緒に過ごしていて、嘆くリーシャばかりでそんなに嘆く理由はもう考えてない。

いつものこと過ぎて彼女の個性と受け入れているのだ。


「お前が嬉し泣き!?珍しいな」


目を丸くして指摘するくらい、彼女が食べ物で泣きめいているのは事実。


「チキュー、チキュー!地球!だー!やっった!やった!たああ!メシウマメシウマ!メシウマ!」


彼女のメシウマコールは初めて聞くので首をかしげていたが、冷静な方のアルメイは地球が見つかったのなら、彼女の説明していたあれがあるのではと尋ねた。


「あの、地球にはアニメが豊富にあるとずっと言っていましたよね?なら、温めていた私達の計画を発足させるときが来たのでは」


「そういや、そんな計画を立ててたな。肝心の地球が見つからなくて、頓挫していたよな?」


ジャニクがあっ、という顔で思い出す。

そうだよ。

私も頑張って探したんだけど、子供が買える道具で見つけられる星なんて既に専門家が見つけていた。

そうだよねー、小説みたいにポコポコ地球を簡単に見つけられるなんて、童話じゃないんだから。

結局見つかるまで15年以上かかった。

それでも、地球がリストに載ったのは私達が地球を探して欲しいと、ゼクシィ管理局にリクエストしたから。

というのもあると思う。


「ゼクシィ管理局すげえよな」


「私達のお願いメールが届いたのですよ」


「うちの星、相変わらず皆優しいよね!私故郷大好き」


こんなに皆穏やかな人種が居るんだってくらい、全員が優しいし最高。

可愛いし、小さいし、ミニマムだし。


アルメイは同じようにリストを眺めて、計画を進めるように言う。

私がどれほど渇望していた星かを知っている。


「地球の食べ物はエネルギーが豊富だから私たちを成長させる事が可能かもしれない、というリーシャの仮説を早く試したいです」


成長すれば私達の種族はこの星に栄養を行き渡らせられて、星の中に美味しいものが生まれるかもしれないし、科学の能力も強くなるかもしれない。

この平和な星で科学を強くしてどうなるというかもしれないが、アルメイが言うには背が高くなったり、大人になるかもしれないと期待しているのだ。

それに関しては、期待し過ぎないようにと言っている。

地球の食べ物に夢を見過ぎであった。


食べ物に夢を見過ぎているアルメイと、アニメを早く見たいと急かすジャニク。

リーシャの長年の布教の結果。


ノラえもんの話をした。

この漫画は今はアニメだが、漫画連載で1969年に始まった。

1973年にはアニメが始まり、そこから超多寿命な国民的テレビアニメとして今も絶賛放映中である。


不思議なポケットの中身にジャニクは興味津々で、それをもっと知りたいというから、わたしはそれを文章にして幼馴染達に読んでもらった。

いたく感動して、二人にこれを出版するべきだと言われて、それはやらないと言ったが、皆んなにもこの作品を深く知ってもらいたいと説得された。


「本当に考えた人に、影響されたものだとはっきり明記しておけば、モヤモヤしなくなるんじゃないか?」


と、言われて出版することになった。

その資金で私達は地球へ行く計画を立てた。


「母さん達、許してくれるよな?」


「どうでしょう。私達は幼体と勘違いされる種族ですからトラブルに見舞われやすいと習いました」


学校も当然あり、卒業したばかりだ。

暇を持て余し気味だったので良いタイミングだった。


「私は反対されても行く。ほら、宇宙船のカタログ。全財産を投入するつもりで良い型を買う」


最新宇宙船を買う為にもエピソードを書いたのだ。

宇宙船の名前はもう決めている。

だ。

因みに私達はアニメ布教隊として有名だ。

小説を読み聞かせたりして活動していた。

ゼクシィ管理局と短く略して、3人はウキウキとリストを再三眺める。


まるで地球のあの時代のように読み聞かせが始まるとわらわらと人が集まる。

そして、それを皆は楽しげに見る。

お菓子は、うん、まあ。

砂糖がないので無理。

甘いという食べ物がない。

現代の日本人としてはやはり苦しい事態。


早く地球に行きたい。

この姿をどうにかしてどうにかしたい!

光学迷彩でなんやかんと出来るものの、やはり素の姿の方が受け入れられるかもしれないから。

小さい子供ならアメとかくれるんじゃない?

アメでも欲しい。

甘いのが兎に角欲しい。

甘味を体は発しているので、何が何でも地球へ行くのは決まっている。


異星人の見た目なので地球と交信をして、アポイントメントを取りたい。

地球のお金がないモンで。

それをどうにかするには地球になにか売るなりすれば良いのではと頭を捻った。

なにを売ろうと3人で話したり大人に相談したら、可愛い子供を見る顔で笑みを携えて色々提案してくれた。


・品を売る


・魔法を見せる


・星を得る


シンプルにリスト化するとこうなる。


上2つは良いとして、最後のは覇権とか奴隷化とかじゃないの。

やるわけないでしょと苦笑いした。

大人達も本気で言っているわけではなくて、地球より小さい星を想像していて、保護対象にすれば欲しいものが手に入りやすいのではないかと、そういう案だ。

科学を見せるか。

それはもっとあとだ。

地球の人が慣れてから。

品を売るのが現実的かなあ。


「私達だけじゃなくて、他の人達も地球に興味を抱けたら、私達の星は更に良い星になる」


2人は承知した顔で頷く。

そして、スッと手を重ねてアニメ布教隊は地球へ赴く準備を始めることになった。

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