偏人

ヤマノカジ

偏愛

彼女と同棲し始めて一年が経つ。

僕は彼女の生理用ナプキンを保存している。


血の滲み具合なんてみながら彼女の調子を予想なんかしたりしている。

職場でこの話をしたらお前おかしいよって言われたんだが、なぜだかはわからない。

普通のことじゃないかって僕は思う。


休日のお昼時、彼女が昼ご飯の準備をしている。

キッチンからリビングに向かって彼女が言う。

「そろそろさ、私のナプキン、保存しなくて良いんじゃない?」

「急にそんなこと言われてもさ…」

ストレスのせいか無意識的に持っていたスマホを強く握る。

「だって、聞いたことある?他のカップルで彼女のナプキン保存してますって人。普通じゃないよ」

僕は立ち上がり、キッチンの方へ向かう。

一歩ずつ、確実に彼女に近づく。

距離が縮まっていく。

彼女の目がおろおろとし始め、焦点が定まっていない様子を見せる。

僕は手を上に上げる。

ぶたれるのかと思ったのか手を頭の方に持っていって守るような体制を取られた。

僕はそのまま頭を搔き、言葉を紡ぐ。


「わかったよ。マリ。お互いの為に、僕たち別れよう。」


マリはまだ理解に及んでいない様子だった。

「あ、、、うん。別れよう。」

でも、別れるってどうすればいいんだろう。

知らない体験。僕にはまだわからない。


マリはしていた料理の過程を捨てて、出ていく準備をしていた。

まぁ僕がこの部屋を契約してるからその判断は間違っていないだろう。

マリが準備をしている間、僕はなんだか気まずくなり、同じ空間にいるのが嫌になった。

トイレに逃げるように向かい、バタンとドアを閉め、別に便意はないがズボンを降ろし、スマホを開く。

別れる、か。


スマホのバイブ音とうるさい音を鳴らし、電話をかける。

「もしもし?ママ、彼女と別れることになったんだよね」

「あ〜そーなの〜?どうしよっか〜」

「うん。どうすれば良いと思う?」

「ゆーくんみたいな良い男の子と別れるなんて、前から思ってたけど変な子ねぇ〜そのまま別れちゃいなさい。そんな女」

「そうだよね。ありがとうママ。大好きだよ」

スマホに向かってキスをする。

ママはそこに存在している。

「ママもだよ。じゃあね。優斗」

スマホからママの声が聞こえなくなると寂しくなる。

ズボンを上げトイレから出ると、マリはもう準備を終えていた。

彼女との少しのこの距離。

もう埋まることはないんだ。

「じゃあ、出ていくね。優斗。住む場所とかは考えなくて良いよ。私、親に言ったから。実家に帰るって」

「うん」

マリは机に家の鍵を置き、玄関に向かった。

まるでもう他人かのようにパーソナルスペースを保って静かに僕はついていく。

マリが靴をトントンと、鳴らして僕に背を向ける。

「最後に聞いて良い?優斗」

「何?」

「私のこと、本当に愛してたの?」

「愛してたよ。ママの次くらいには」

マリが振り返りこっちに近付いてきて、手を大きく振りかぶって僕にビンタをした。

綺麗に大きく音が鳴る。

僕は咄嗟に手が出そうになった。

頬を抑えていた右手を拳に変えて殴りたかった。

でも僕は殴らなかった。

だって、きっとママが悲しむもん。


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偏人 ヤマノカジ @yAMaDied

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