第4話 堕ちた天才
自転車を漕ぎ始めて25分、俺は音楽室の前にいる。
「一応ここまで来たけど......木滝さんいるかな......?」
そう呟きながら、音楽室を覗こうとすると━━━━━━━
「わ!!!」
「うぎゃ!!!?」
俺は突然背後から誰かに肩を捕まれ、耳元で大きな声を出された。
(変な声出しちゃった.....穴があったら入りたいぃぃ......)
「へへへ、びっくりした?」
犯人は当たり前だが、木滝さんだった。
「脅かさないでくださいよ......」
「ごめんごめん。でも、うぎゃあってさぁ......」
必死に笑いを堪えてる木滝さんにこの時始めてちょっぴり怒りを覚えた。(冗談だが)
その後木滝さんは、職員室から取りに行ったであろう音楽室の鍵を使って音楽室を開けた。
高校入学以来、始めて来た音楽室の感想は━━━━━━めっちゃ広い。
もっといい感想を言え!
そう言われるかもしれないが、めっちゃ広い。
そう思いながら音楽室を見回していると、木滝さんがじっと俺のことを見ているのに気がついた。
「音楽室、初めて来たような感じだね?」
「ああ、はい、俺は去年音楽の選択取ってなかったんで......」
「へぇ、まぁ私もだけど」
それは意外だ。
ピアノに対して、少しでもトラウマがあるとしても、音楽の選択科目を取っているんだろうな━━━━━そう思っていたからだ。
「そんなことより! 本題入るよ!」
そう言って木滝さんは、カバンの中に入っていたカレンダーを取り出した。
「まず、今の日付が9月11日の土曜日じゃん? そして、文化祭当日は10月の29と30日。だいたい2ヶ月......いや、1ヶ月半かな? その期間でどう練習していくか話し合おうよ」
「うーん......そうですねぇ......」
練習の方法は、俺は全く分からない。
英単語や漢字の勉強のように、繰り返し何度もやるのか......それとも、もっと別のやり方があるのか......そんなことも俺には分からない。
「正直に言うと......俺はピアノについてあまりよく知らないんですよね......だから、どう練習していけばいいのかもアドバイス出来るか不安なんです」
「アドバイスは大丈夫だよ。ピアノの弾き方も、楽譜の記号もちゃんと読めるし」
「それなら、俺はどうすれば......?」
一瞬間を置いたあと、木滝さんは俺の目をまっすぐ見ながら言った。
「人の目の役......かな......?」
そう言って、木滝さんはピアノの椅子に腰掛け、鍵盤に手を置いた。
「今から、私がよく弾いてたやつを弾くから私の事、じっと見てて」
そう言って、ゆっくりながらも、明るい曲がピアノから流れてくる。
ピアノを弾いている木滝さんは、ピアノに対して本当にトラウマがあるのか? そう思わせるほどの雰囲気を醸し出している。
「〜〜〜♪」
少しの間、木滝さんはピアノを引き続けていると、俺は木滝さん顔がとても怯えているような様子に気づいた。
最初はとても良い出だしであったが、途中から最初の良さが崩れていき、そして演奏は途中で終わってしまった。
息が少し荒くなっている辺り、実際にはまだトラウマはあるようだ。
「木滝さん、大丈夫?」
「うん......今のが、今の私の精一杯......」
そう、少しだけ怯えた様子の木滝さんは言った。
□
あの後、俺たちは駐輪場まで歩いた。
「真波くん、今日は急にごめんね?」
「いや、全然大丈夫だよ。一昨日宣言しちゃったんだから、当たり前だよ」
「そっか、じゃあ月曜日もこき使ってあげよう」
「ほどほどにお願いします......」
「ふふ、どうしよっかなぁ?」
そう、意地悪な顔をしながら言った。
「それじゃあ真波くん、また月曜日ね」
そう言って、木滝さんは帰って行った。
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