第11話 亜人悪魔連合①

アベリオン丘陵とローブル聖王国を分断するように建てられた要塞戦には、三つの大きな砦が存在する。


それは100㎞にわたる長大な壁に3つしかない門を守るための防衛施設であり、周囲の小砦への援軍を待機させる駐屯基地でもある。


万が一、亜人たちの侵入を許して国家総動員令が発動した場合は、糾合した大兵団と挟撃して戦うための拠点ともなる。


その一つが、中央部拠点。


日が傾き、夕日が徐々に大地を赤に染めていく。


鋸壁に足を掛け、赤く染まった大地…東の丘陵地帯を睨んでいた男が、足を下した。


筋肉隆々とした男だった。


ごつい身体にいかつい風貌が調和している。


名をオルランド・カンパーノ。


強さだけで誉れ高き聖王国九色の一色を先代聖王から与えられたという実績を持つ男だ。


だが、素行や性格に難があり、兵士団班長という低い地位に留まっている。


そんなオルランドは、何かに気付いたように視線を動かし、こちらに向かってくる男を認識する。


その男は細かった。しかし、木の枝とは違う、鋼の細さであった。


さらに、細い目は今にも襲い掛かってきそうなほど鋭い。


黒目が小さいということも相まって、まっとうな職に就くものには見えない。


「おっと、今日は随分とお早い登場ですな、旦那…。まだ夜番の時間には早いでっせ」


「オルランド…。お前から聞きたいことがあってな…、例の白い騎士の話だ」


この男は、パベル・バラハ…。二つ名は夜の番人。


オルランドと同じ、九色の一色を戴く男だ。


彼は弓兵で、しかも百発百中と言われる超名手だ。


「あー、なんか南方からの旅人とか言ってましたが…ありゃただものじゃないな…」


「…どういうことだ?」


オルランドは、ニッと口角を上げる。


「まずは装備だな…白く輝く全身鎧…。そして腰に差した2本の珍しい剣…。そして何よりも体裁きだな…」


「手合わせしたのか?」


パベルの目がいつもよりも鋭くなる。


「いんや…勘ですがね…。あれは強い」


「勘か…。しかし、お前が言うのであればあながち的外れではあるまい」


「がははっ!そんなこと言うのは、旦那とうちの班員だけだぜ!」


オルランドは、まるで悪役のような笑い声をあげる。


…そのタイミングで鐘がなった。


夜番との交代時間か?…それにしては少し早い気もしたが、オルランドの思いはいつまでも打ち鳴らされている鐘の音によって雲散する。


オルランドはパベルに続き、はじかれた様に丘陵地帯へと振り向く。


この鐘の意味するところは、「亜人の影あり」だ。


400m以上にわたって視線を遮るもののない、その奥地に黒い影のようなものがあった。


「旦那…」


これだけの遠い場所にいる亜人の正体を掴むことができるのは、パベルにしかできない。


「亜人…じゃない…」


パベルの言葉に、オルランドは目を見開いた。


すぐさま質問をしようと口を開くが、パベルの方が早かった。


「あれは…悪魔だ…」


「悪魔!?…どのくらいいるんだ?」


悪魔ともなれば、種類によっては亜人よりも厄介な存在である。


亜人ですら人間よりも身体能力が高いが、悪魔はさらにその上をいくものが多い。


「…旦那?」


返事がないことに戸惑う。


普段は無表情のその顔に困惑の色がはっきりと浮かんでいた。


「…数が…多い…。1000に近い…」


「なんだって!?」


丘陵地帯に悪魔が生息しているなどという話は聞いたことがない。


1,2体であれば、自然発生か誰かが召喚したとしても納得がいく。


だが、1000体ともなれば、それはもはや悪魔の根城を意味していた。


「…!?ば、バカな!!…悪魔の後ろに亜人の姿も見える!!」


「なっ!やつら、手を組んだってのか!!」


ありえないことではあったが、それは断言できることではなかった。


亜人種であれば多岐に渡る情報を有している聖王国であったが、悪魔に関しては文献で知りえたものが多い。…いや、それがほぼ全てであった。


「大侵攻…?」


誰かの声。本人としては独り言だったのかもしれないが、それは以上に大きく聞こえた。


「…これは、国家総動員令が発動されるかもしれない…」


「はは!聖王国の歴史上、一度しか起きたことのない大戦争を俺らの時代でもう一度、とは何とも言えないね!」


「俺は上に伝えてくる…お前も付き合え!」


「了解だ、旦那!!お前ら!!!これから楽しいパーティの始まりだ!予備武器をかっぱらってこい!!」


オルランドはパベルの後を追って走り出した。





カリンシャからアベリオン丘陵の間…。


その街道の上空には、音速にも似た速度で飛翔している物体があった。


多少なりともそれを目にした聖王国の住人はいたが、それがまさか人であるとは誰も思わなかった。


ウルである。


カリンシャで悪魔を倒した後、何やら大声を上げて走り去っていったウルだが、今は聖王国東端…アベリオン丘陵に向けて『速飛行』の魔法を極限までの速度をもってして飛行していた。


「どうして気付かなかった…」


ウルは、まるで新幹線を思わせる速度で飛行しながら、小さく呟く。


カリンシャの町はずれで、悪魔を召喚した際に気付くべきだった。


なぜアイテムボックスに入れておいたはずのものが、入っていなかったのか。


なぜ、ギルド拠点に置き忘れてきたと勘違いしたのか…。


そして…。先ほど思い出したのだ。


アベリオン丘陵で亜人を倒した後、そこでアイテムの確認と整理をしたことに。


その際に、取り出したアイテムを一度地面に置いたことに…。


そしてあろうことか、そのアイテムをしまった記憶がないことに…。


それを、今の今まで忘れていたのだ。


そう…。


ウルが置き忘れた可能性が高いアイテム…。


それは、最終戦争・悪が『3重』で封じ込められている、弟が作った悪魔像であった。

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