第54話 消えたユーキを探せ

駅に向かった二人を見送ったトールとナツは、気が抜けてだらんとしていた。


ナツのスマホが、シャッチョから着信で鳴る。



「はい。どうしま」


『ユーキちゃんが攫われたらしい』



出た瞬間、かぶせるように言われて、時が止まる。



「攫われたって、ユーキが? 誰に? 本当に?」



意味が分からなくて、聞き返す。


キッチンでトールが、手を止めてこちらを見ていた。



『ユリちゃんから泣きながら電話があって、連絡先が分からないからってこっちに来た』


『部長のお兄さんって言ってたな。自動車で連れ去ったらしい』



つらつらと話すシャッチョの言葉は冷静だった。


だからこそ、頭が冷えて冷静になる。



『ユリちゃんがそっち向かってるけど、責めるなよ。女の子の力じゃ敵わないんだから』


「わかってます」


『こっちは仕事が片付いたら行くわ』


「はい。ありがとうございます」



電話を切って、トールを見る。



「アンタの兄が、ユーキを攫ったらしい」



シン、と静まり返る部屋。



「……殺そう」



ポツリと、トールが呟く。



拳が震えると同時に、なぜか頭は冷えた。


激昂している時間はない。


早急に見つけて追わなければ、手遅れになる。



「今日の服はGPSをつけてない。ナンバープレート分かるか?」


「前に確か書いた。探してくる」



ナツが自室に走っていく。


それを目で追いながら、トールはナンバープレートがあったところで見つからないと考えていた。


番号で探せるなら盗難車なんてすぐに探し出せるはずだ。あんなものは照合にしか役に立たない。


車から探すのは無理だ。情報を聞いて正解を探すしかない。





トールはまずは父に電話をした。


事情を説明すると、真一が住む家の住所を送ってくれることになった。


祖父にも電話し、説明する。


別荘の鍵は揃っていると言われたが、母親がスペアキーを簡単に作っていることを考えると、信用できなかった。



電話中に家のインターフォンが鳴ったが、無視をした。



父親から真一の住所が来たが、都内に近く、PCで画像を調べると、そんなに広い家ではない。



(ここにユーキ君と母親と一緒に連れこむか? 違うな)



考えていると、ナツがユリちゃんを連れてきた。


手にはユーキのバッグを持っていて、地面に擦れて汚れた後があった。


思わず拳に力がこもる。


怒鳴りたかったが、悪いのは兄と母であり、この子もある意味被害者だ。


泣いている女の子を前に、何も言うことはできなかった。



「なんか、お兄さんと、あと派手なおばさんに連れられていって」



泣きながら状況を説明してくれる姿は憔悴していた。


派手なおばさんは、自分の母だろう。そもそも派手な恰好が好きな奴だった。



「ユーキじゃなくても、兄か母親のスマホの位置が分かればな」


呟きつつ考える。


何か手がかりがあるはずだ。


警察に頼んでも、やみくもに探しても時間がかかって危ない。



「……母親のスマホのOSって、PCから探せるよな」



ぽつりとナツが言った。


ハッとして父親に連絡する。


PCから端末を紛失した時に探せる機能が、このメーカーは優れていた。


急いで母親のIDなどを知らないかと問う。



『今ちょうど探してたところだ。設定した時のメモが残ってる。アイツなくすから』



父との電話をすぐ切ると、しばらくしてIDとパスワードが載っている画像が送られてくる。


PCからアクセスすると、ログインできた。


喜ぶのも忘れて、必死に目的の場所を探す。


PC上に、地図上のスマホの場所が表示された。



(この場所は)



自動車が向かっている道の経路に覚えがあった。



……都内から近すぎずに、騒いでも問題ない程度に田舎。




あの腐った人間と同じ感性が自分の中にもあると思うと、反吐が出る。




「行先は、指輪を渡した別荘だ」




まだ着いていないから、今から警察と別荘の管理人に連絡すれば最悪の事態は防げそうだ。


思い出の場所が、黒く塗りつぶされる予感がして、気が狂いそうだった。














急いで自動車を走らせる。


後部座席にはナツがいて、他の人間は別の自動車だ。



別荘へは、真一達より1時間ほど遅れて到着しそうだ。



(1時間なら、なんとかなるかもしれない)



必死に落ち着けと考えているが、上手くいかない。


管理人も警察も対応してくれると言っていた。



(だけど、希望は希望で、現実ではない)




ナツが後部座席で電話応対をしている。



「え、どういうことです?」



声が、少し震えていた。



「2人はいたけど、ユーキがいなかった?」


「そんなはずはないです。途中で帰らせたなんて……よく探してください」



電話を切りながら、ナツが深くため息をつく。



「ユーキが見つからないって」


「別荘に警察がいたから、一旦降ろして隠した可能性がある」



もう少し遅く通報した方が良かったかもしれないという気持ちと、それでは間に合わないという気持ちが交差する。




「でも、騒いでたら近所の人に見つかる」


「騒げない状態だとしたら?」



ナツの言葉に、トールが冷静に返した。


騒げない状態を想像したくないが、おそらくそういう状態なのだろう。


信号が赤になり、止まる状態さえ腹立たしくて、ハンドルを握る。



「もし隠すなら近所の人に気付かれず、遠くもなく、誤魔化せる場所」



呟きながらナツが、必死に検索をする。


警察が来たのなら、別荘にいるのはまずいと気付いたはずだ。


それなら、監視の目がなくなった後、早々にユーキを連れて逃げるはずだ。その前に捕まえないと。


考えながら、ハンドルをきった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る